English

具体的な研究内容

1) 氷結晶が気相や融液相から成長する機構やカイネティクスについて

1-1) 雪結晶の形の変化


 過飽和な水蒸気中で成長する雪結晶の形は、温度が低下するとともに、板状(0〜-4°C)、柱状(-4〜-10°C)、板状(-10〜-22°C)、柱状(-22°C以下)と繰り返し変化します(図1:中谷ダイヤグラムと呼ばれます)。雪の晶壁変化と呼ばれる本現象は、中谷宇吉郎先生の先駆的な研究によりよく知られていますが、まだその機構は全くわかっていません。


図1 雪の結晶の形。Furukawa and Wettlaufer (2007) Phys. Today 60,70-71.

1-2) 氷の融液からの成長機構


 過冷却された融液(水)中で成長する氷結晶の成長機構を分子レベルで研究することはこれまで誰もできませんでした。本研究室では、ようやくそのような研究が可能になりつつあり(図2:擬似液体層の下で氷結晶の単位ステップが成長しています)、新たな物理現象が発見できるものと期待しています。


図2 疑似液体層中のステップ。Murata et al.(2019) Phys. Rev. Lett. 122, 026102.

1-3) 不凍タンパク質の作用発現機構


 天然の寒冷域で生息する魚や昆虫などの変温(外温)生物は、ゼロ℃以下の温度でも凍死を免れるために、不凍タンパク質と呼ばれる特殊なタンパク質を体内で生産します。不凍タンパク質の作用発現機構を解明できれば、基礎科学および応用の両方の観点から大きな発展が期待されます。

2) 融点以下の氷結晶表面に生成する擬似液体層(薄い水膜)について

2-1) 擬似液体層の生成機構


 氷は融点(0°C)よりも高温では全て融けてしまいます。しかし、0°C以下の温度においても氷の表面は、擬似液体層と呼ばれる薄い水膜で覆われています(図3:氷表面には形態が異なる2種類の擬似液体層が生成します)。この擬似液体層は、スケートの滑りやすさから、復氷、凍上、さらには雷雲中での電荷分離にいたるまで、様々な現象の鍵を握ると考えられています。そのため、擬似液体層の生成機構の解明は、多数の分野に大きな寄与を及ぼします。


図3 氷表面の2種類の疑似液体層。Sazaki et al. (2012) Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 109, 1052-1055.

2-2) 多結晶での擬似液体層の生成機構


 天然に存在する氷の多くは、単結晶ではなく多結晶です。多結晶は、粒界(単結晶粒同士の界面)や格子欠陥を多く含むため、単結晶よりもさらに多くのことを考える必要があります。しかし、天然の現象を理解するためには 重要な課題です。

3) 氷結晶と環境問題について

3-1) 酸性ガスの影響


 塩化水素や硝酸などの酸性ガスは、氷結晶上で様々な不均一化学反応を引き起こします。極域上空でのオゾンホールの生成(オゾンの分解)もそのひとつです。そのため、酸性ガスが氷結晶表面と相互作用した結果、どのような現象が引き起こされるかは、寒冷域での環境問題の鍵を握ります(図4:HCl水溶液の液滴が氷結晶中へ取り込まれてゆきます))。


図4 塩化水素ガスが塩酸液滴として氷内部に取り込まれる様子。Nagashima et al. (2018) Crystal Growth & Design 18, 4117-4122.

3-2) 氷結晶上での化学反応


 氷結晶表面上での様々な不均一化学反応を直接計測できれば、3-1)の研究をさらに広い角度で押し進めることが出来ます。