所長挨拶

低温科学研究所は,昭和16年(1941年)に北海道大学初の附置研究所として設立されました.以来,雪氷学や低温生物学の分野で発展を遂げ,特徴と伝統のある研究所として,北海道大学の顔とも呼べる存在になりました.しかし,長い歴史を重ねることはマンネリ化をもたらすことと裏腹であり,徐々に研究所のアクティビティも低下し,その存在意義を問われることとなりました.このような状況を打開するため,平成7年(1995年)には,寒冷圏の自然現象の基礎と応用の研究を目的とする全国共同利用研究所に改組され,新たな研究所として生まれ変わりました.それ以降,研究所内のさらなる改革を進めると同時に,各種大型研究プロジェクトの実施や国内外の研究機関との連携を積極的に推進してきました.平成16年(2004年)には,オホーツク海沿岸の紋別市にあった附属流氷研究施設を廃止・転換し,「環オホーツク観測研究センター」を札幌市に設置しました.平成20年(2008年)には再び改組を行い,研究分野ごとの基盤強化をはかるために,「水・物質循環部門」,「雪氷新領域部門」,および「生物環境部門」の3大部門を設置しました.さらに,共同利用・共同研究機能を強化するため「共同研究推進部」を設置し,低温科学研究所の看板となりうる分野横断型の研究テーマを遂行するためのプラットフォームとして,「プログラム」研究制度を立ち上げました.これにより,若手研究者を中心とした優れた萌芽研究をプログラムのテーマとして取り上げ,自助努力による積極的な支援により研究の推進をはかる体制を整えました.このように,大学附置共同利用研究所として,その役割を果たすべく可能な限りの努力を払ってまいりました.
一方,平成16年(2004年)には,大学改革の一環として国立大学が法人化されました.法人化以後,各大学の独立性が強まり,大学間の連携や共同研究の遂行に困難な状況が生じています.当研究所も国立大学法人北海道大学の中でその存在意義を厳しく問われる立場にさらされており,大学附置の共同利用研究所としての存在意義を各方面に理解して頂く努力を今後とも払っていく必要があります.
このような状況にあって,平成22年(2010年)からの大学法人の第二期中期計画の開始とともに,低温科学研究所は「寒冷圏及び低温条件の下における科学的現象に関する学理及びその応用の研究」を目的とする共同利用・共同研究拠点に認定され,新たなステージの共同利用研究所として再スタートを切りました.共同利用・共同研究拠点として,国内外のさまざまなコミュニティーに貢献することは,以前にもまして研究所の重要な責務となりました.昨今の厳しい予算状況の中で,この責務を果たしていくことは容易なことではありません.しかし,低温科学研究所ではさまざまな工夫をこらし,可能な限りの貢献ができるように今後とも最大限の努力を払ってまいります.
研究面では,国内外の研究機関と連携したプロジェクト・共同研究を推進するだけでなく,大学でしかできない長期的展望に立った独自性のある研究を生み出すことが,大学附置研究所の大きな役割です.地球環境における寒冷圏の重要性に鑑み,世界各地の寒冷陸域・海域においてさまざまなフィールド研究を展開し,多大の成果があがっています.同時に物性物理学,地球化学,惑星科学,生物環境科学等々の基礎的研究も推進し,これらの中からも,大きな成果があがりつつあります.また,共同研究推進部で実施しているプログラム研究の中からも,最先端でオンリーワンの研究の芽がいくつも出てきています.今後,これらをいかにして育て,低温科学研究所の次世代を担うような新しい研究分野を立ち上げていくかが,研究所発展のための大きな鍵となります.これを実現するためには,大胆な組織改編や人員配置などを遅滞なく行っていくことも重要であり,英断を持って実施していきたいと考えています.
教育面では,大学院環境科学院,生命科学院,理学院の教育を担当し,多くの大学院生を受け入れています.特に,環境科学院とはグローバルCOEプログラム「統合フィールド環境科学の教育研究拠点形成」を共同で実施しています.また,雪氷寒冷圏科学の国際的教育プログラム「国際南極大学」も推進しています.これは,国内外の教育・研究機関との強力な連携により,世界水準の教育プログラムを提供するもので,大学附置の全国共同利用・共同研究拠点である当研究所の特長を生かしたものです.優れた若手研究者の育成は,研究所の将来をも左右する重大な問題ですが,近年の若手研究者に対する待遇の悪化は極めて深刻であり,低温科学研究所でも例外ではありません.上記のような魅力あるプログラムを推進するなど,この状況を少しでも改善するための努力を,今後とも継続していきます.
低温科学研究所は,寒冷圏の地球環境科学を担う共同利用・共同研究拠点としてその存在を広く内外に認められ,その重要度がますます増加してきています.同時に,当研究所での研究・教育の成果は,国立大学法人北海道大学の中にあって独自性を発揮する研究所としての発展もますます期待されています.低温科学研究所は,今後とも,寒冷圏および低温条件下におけるさまざまな自然科学現象の解明を通じて,社会の要請に努め,その役割を果たしていく所存です.皆様の一層のご支援,ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます.
平成23年4月1日
所長 古川 義純
