Appendix A: 海底堆積物コア解析に関するシンポジウム[ホームへ戻る]
Appendix B: Khromov 99 Cruise Chart
高緯度海域に広く分布する海氷が、世界の気候に大きな役割を果たしている事 はよく知られている。なかでも、オホーツク海は地球上で最も低緯度に位置す る海氷域であり、地球温暖化の影響が最も顕著に現れる場所として、近年特に 注目されている。また、オホーツク海は北太平洋中層水の起源水域であり、二 酸化炭素の吸収域、高生物生産域など物質循環の見地からも重要な海域である。
しかし、オホーツク海はこれまで観測が少なく、何故そのような低緯度で海氷 が形成・発達できるのか等、基本的な問題が未解決である。本研究では、ロシ アの協力によりロシア船を用いたオホーツク海ほぼ全域の海洋観測を中心に、 リモートセンシング、モデリングなどの手段を総動員して、海氷の消長過程、 北太平洋中層水の起源水の生成機構、海氷変動とそのインパクト、大気ー海洋 相互作用などを明らかにし、オホーツク海における海氷の実態と気候システム における役割の解明をめざしている。
平成 11年度には、前年度に引続きロシア船「クロモフ号」を用いた第二回目 の航海を海氷形成前 (平成 11年 8月 27日 - 9月 28日) に行なった。今年の 航海では、通常の海洋観測 (CTD/採水)の他に、昨年設置した流速計やセジメ ントトラップなどの係留系の回収や、昨年同様、過去 10万年の海氷変動・環 オホーツク気候の復元を可能にする海底堆積物コアのサンプリングや、さらに オホーツク海の海洋循環を明らかにするためにアルゴスブイ 20基を新たに展 開した。特に、二回目の航海では、海氷形成が最初に起こり、高密度生成域・ アムール河からの淡水供給などオホーツク海研究の鍵を握る海域ながら、今ま で進入することさえ不可能だった北西部大陸棚における、初めての本格的な海 洋観測を実施した。また、北海道沿岸沖での砕氷船「そうや」を用いた海氷域 観測を、これまでどうり継続して実施した他、ロシア航空機を用いたオホーツ ク海氷域の上空からの大気・海氷観測を初めて行なった。幸いにも、今冬は厳 しい冬型の気圧配置が続き、海氷も発達した。この発達した海氷域の下の海洋 観測データは、二回目の航海で設置した、合計 19ケ所の係留系を今年度の航 海 (平成 12年 6月 3日 - 7月 5日予定) で回収することによって得られる。 これらの大気・海洋・海氷同時観測から、今まで未知であった冬季オホーツク 海における海洋循環、海氷の漂流、さらには大気 - 海氷 - 海洋相互作用など のメカニズムの解明に迫っていくことができると共に、我々の念願とする、オ ホーツク海における大気 - 海洋 - 海氷結合モデルの構築化への大きな足掛か りが得られるものと期待される。
第二回目の海洋観測で得られた貴重なデータについては、現在いろいろな角度・ 視点からの解析が進められている。
平成 11年度に実施した研究項目とその内容は以下の通りである。
本研究の目玉である、ロシア船を用いたオホーツク海ほぼ全域の三年連続の観 測航海の第二回目を平成 11年 8月 27日 - 9月 28日の日程で実施した。観測 海域と観測点は図1 に示してある。
観測項目は、海洋循環、物質循環、高生物生産性の実態把握のための流速・水 温・塩分計・セジメントトラップからなる係留系の回収及び設置、CTD/採水観 測、オホーツク海古海洋研究のための海底堆積物コアのサンプリング、さらに はアルゴスブイ (20基) による海洋循環の観測などである。今年の航海では、 ブッソール海峡内、サハリン東岸沖の合計 7ケ所での係留系すべての回収に成 功した。これら係留観測データを含むすべてのデータについて、現在解析を進 めているが、今までに得られた、おおざっぱ所見としては以下の通りである。
海氷の形成・輸送過程や大気海洋への影響を明らかにする上で海氷域の現場観 測データを得ることは重要である。本研究グループでは、1996年より海上保安 庁水路部との共同により砕氷型巡視船「そうや」によるオホーツク海南西部海 氷域の海洋、海氷、気象観測を行なっている。海氷の厚さ、張り出し面積など は年による違いが顕著なので、毎年観測を継続することは重要であり、2000年 2月にも観測を行なった。
観測は 2月 12日より 2月 18日の 7日間行なった。主な観測項目は、海氷の厚 さ・面積のビデオ観測、海氷サンプリング、CTD - XBT観測、バルク法による 熱収支の観測、高層ゾンデ観測、である。昨年までの観測からこの海域では、 厚い氷でも何枚もの薄い氷が重なり合って出来たものであること、新生氷は他 の海域には見られない特異な結晶構造を持つこと、海洋の混合層は従来言われ ていたよりも数倍深くまで達しており、特に厚い海氷の見られる年に深くまで 発達していること、この海域の現場での海氷成長速度はごく小さいこと、など が明らかになってきている。これらは、この海域の海氷がオホーツク海北部の 寒冷な海域で形成され激しく折り重なりながら流されて来たものであること、 海氷の輸送には風だけでなく海流が寄与していること、新しい氷は現場でもわ ずかに形成されていることなどを示唆している。
今回の観測期間中の海氷は張り出し面積は大きいが、厚さは比較的薄いもので あった。また海洋混合層の発達も弱かった。この様な特徴的な海氷状況の年に ついて海氷、海洋、気象の全ての分野で概ね良好なデータを得ることが出来た ので、過去の観測データと比較検討しつつ現在解析を進めている。
オホーツク海において、海洋、海氷上の潜熱・顕熱フラックスの鉛直分布を測 定することにより、大気 - 海洋 - 海氷相互作用を明らかにすることを目的と する。
気温、湿度、風速、風向、乱流フラックス、短波放射 (上向き、下向き)、長 波放射 (上向き、下向き)、雲水量、雲粒粒径分布、降水粒子粒径分布、エア ロゾル粒径分布、可視及び赤外線カメラによる海面撮影。
毎日、天気予報を基に 1日先の観測を行うかどうかを日本側が決定し、樺太で 待機しているロシア側に通知した。更に、毎朝 9時 (日本時間) までに、その 日に観測を行うかどうかの最終決定を日本側で行った。その結果、2000年 2月 9、14、18日の 3回、それぞれ樺太の南部、中部、北部の 3箇所で航空機観測 を行った。短時間 の欠損を除けば、測定はほぼ完璧に行われた。詳細は、添 付した報告書に書かれているが、風上から風下に行くにつれて、気温、湿度共 に上昇し、潜熱・顕熱フラックスも海氷上に比べて海洋上では格段に大きいこ と、その値は、事前に行われた数値計算の結果にかなり近いことが分かってい る。また、数 10kmの水平スケール (メソγスケール) で潜熱・顕熱フラック スが大きく変動するという新たな現象が見つかった。この変動が、海洋表面の 変動によるものか、それとも大気の雲の影響によるものかを明らかにする予定 である。
昨年同様、海氷の南下時期に北海道斜里町でのゾンデの観測を行なった。昨年、 丁度良い風が吹く事例が少なかったことと、海氷の発達する前のデータが十分 でなかったことの反省から、観測期間を延長し、1月 11日から 2月 25日まで の 7週間弱に渡って観測を行なった。この内、1月 31日までは一日 2回、それ 以降は一日 4回の観測を行なった。幾つか再放球の必要はあったものの、全て の場合においてデータを取得することが出来た。
同じ期間、サハリンのユジノサハリンスクおよびホロナイスクで通常一日 1回 の観測を 2回に強化、さらに集中期間にはユジノサハリンスクで一日 4回の観 測に強化を依頼した。
解析はこれからであるが、昨年は次々と小さな低気圧が通過し、なかなか冬型 が安定せず、解析に適した事例が少なかったのに対し、今年は冬型が安定した 期間が長く、解析に適した事例が多く見つかることが期待される。
海氷の量を見積もるために不可欠である厚さについて、オホーツク海の北海道 沿岸域 (湧別沖) で、連続した時系列のデータを取得することを目的として、 氷厚計・ADCP 等の係留観測を行なった。
1999年 3月末に回収した各測器のデータ処理・解析を行なった。今回使用した 氷厚計は、日本に初めて導入された測器であるため、データの処理・解析につ いては、1999年 5月に製造元のカナダ ASL社に出向いて、研修を受けた。また、 1999年 12月には、同じ構成の係留系を、昨シーズンと同じ湧別沖の海域に設 置し、2000年 4月に無事に回収に成功した。
観測データはぼう大な量であり、今まで慎重に解析してきたが、昨年のデータ について、今までに明らかになったのは以下の通りである。 2月中旬に約 0.4m であった海氷の平均の厚さが、3月下旬には、約1.3m となっており、大 きな変動が明らかになった。また、厚さが 10 m を超えるような海氷も度々観 測され、期間中で最大のものは、約 17m であった。
SSM/I マイクロ波データを用いた海氷の分類 (生まれたばかりの新生氷、少し 時間の経った若い氷、かなり時間の経った一年氷) から、オホーツク海の海氷 域の詳細な変動機構を明らかにした研究 (Kimura and Wakatsuchi, JGR,1999) に続いて、本研究では、同じマイクロ波データを用いて、北半球全体の海氷域 について、海氷の漂流ベクトルをかなりの精度で求め、それの地衡風との関係 を明らかにした (Kimura and Wakatsuchi, GRL, 2000)。また、これらの結果 から、海氷の下の海洋の循環も導き出すことが出来た。いずれも、実測データ とよく一致していることが確認された。
氏名 |
所属 |
役職 |
担当する研究項目 |
参加時期 |
備考 |
若土 正曉 大島慶一郎 深町 康 水田 元太 S.Gladyshev 滝沢 隆俊 S. Riser Y.Volkov 安田 一郎 見延庄士郎 三宅 秀男 河野 時廣 V. Luchin 竹内 謙介 藤吉 康志 川島 正行 豊田 威信 立花 義裕 渡辺 達郎 北川 弘光 河村 公隆 中塚 武 大河内直彦 池原 実 A. Saveliev 渡辺 修一 A. Tkalin 斎藤 誠一 榎本 浩之 高橋 孝三 S. Varlamov N. Rykov H. Melling A. Petrov 大井 正行 福士 博樹 伊東 素代 岩本 勉之 山本美千代 五十嵐浩司 大西 啓子 岡崎 裕典 吉田 磨 武藤 傑 吉川 知里 |
北大低温研 北大低温研 北大低温研 北大地環院 北大低温研 海科技セ UW* FERHRI* 東大理院 北大理院 北大水産院 北東海大工 FERHRI* 北大低温研 北大低温研 北大低温研 北大低温研 東海大文明研 日本海区水産研 北大工院 北大低温研 北大低温研 北大低温研 北大低温研 FERHRI* 北大地環院 FERHRI* 北大水産院 北見工大工 九大理学部 九大応力研 FERHRI IOS* FERHRI* 北大低温研 北大低温研 北大地球環境研 北大地球環境研 北大地球環境研 北大地球環境研 北大地球環境研 九大理学部 北大地球環境研 北大地球環境研 北大地球環境研 |
教授 助教授 助手 助手 客員研究員 主任研究員 教授 所長 助教授 助教授 助教授 助教授 研究室長 教授 教授 助手 助手 講師 研究員 教授 教授 助教授 助手 学振特別研究員 主任研究員 助教授 主任研究員 助教授 教授 教授 助教授 主任研究員 主任研究員 研究室長 COE研究支援員 技官 DC3年学生 DC3年学生 DC2年学生 M2年学生 M2年学生 M1年学生 M2年学生 M1年学生 M1年学生 |
総括 海洋物理観測 海洋物理観測 海洋物理観測 海洋物理観測 海氷データ解析 係留観測 海洋データ解析 海洋データ解析 海洋データ解析 海洋データ解析 海洋データ解析 海洋データ解析 大気物理観測 大気物理観測 大気物理観測 大気海氷観測 大気物理観測 海氷モデル研究 海氷モデル研究 大気化学データ解析 海洋化学観測 海底堆積物コア分析 海底堆積物コア分析 海洋生態研究 海洋化学観測 海洋化学観測 衛星データ解析 衛星データ解析 海底堆積物コア分析 気象データ解析 気候データセット作成 海氷観測機器開発 海氷データ解析 機器の保守・点検 機器の保守・点検 観測・研究補助 観測・研究補助 観測・研究補助 観測・研究補助 観測・研究補助 観測・研究補助 観測・研究補助 観測・研究補助 観測・研究補助 |
9.10.1 - 14.10.31 〃 〃 〃 10.4.1 - 14.10.31 9.10.1 - 14.10.31 〃 〃 〃 〃 〃 11.4.1-14.10.31 10.4.1-14.10.31 9.10.1-14.10.31 10.9.1-14.10.31 11.4.1-14.10.31 〃 9.10.1-14.10.31 10.4.1-14.10.31 11.4.1-14.10.31 9.10.1-14.10.31 〃 〃 〃 10.4.1-14.10.31 9.10.1-14.10.31 〃 〃 〃 10.10.1-14.10.31 9.10.1-14.10.31 10.4.1-14.10.31 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 10.10.1-14.10.31 11. 7.1-14.10.31 〃 〃 |
氏名 |
現職 |
派遣先 |
担当する研究項目 |
参加時期 |
備考 |
初鹿 麻子 |
JST |
北大低温研 |
研究補助事務 |
10.4.1-12.3.31 |
研究チーム事務員 |
山口三千香 |
JST |
北大地球環境 |
堆積物コア分析 |
10.11.1-12.3.31 |
技術員 |
日時:2000年 3月 6日 (月) 10:00 - 17:00
場所:低温研会議室 (3F)
10:00 - 10:10 | この会議の趣旨について (若土・中塚) |
10:10 - 11:00 | 「コアの記載・年代軸について」 |
・帯磁率、色、堆積構造等について (池原) | |
・有孔虫の酸素・炭素同位体比 (大場) | |
・有孔虫の 14C 年代測定 (村山) | |
11:00 - 12:00 | 「海氷形成とそのインパクト - 1 (海氷変遷の実態)」 |
・珪藻群集 (志賀・小泉) | |
・粒度、鉱物組成等 (坂本) | |
・石灰質ナンノプランクトン (岡田・田村) | |
12:00 - 13:00 | <昼休み> |
13:00 - 13:45 | 「海氷形成とそのインパクト - 2 (中・深層水への影響)」 |
・放散虫群集 (岡崎・高橋) | |
・底生有孔虫群集 (吉本・長谷川) | |
13:45 - 14:30 | 「オホーツク海の生物生産の規定要因 (含む、融氷期の高生産イベント)」 |
・Opal等 (成田) | |
・CaCO3, TOC, 15N, 13C (中塚・大西) | |
14:30 - 15:15 | 「Holoceneの短周期気候変動の実態」 |
・珪藻群集 (小泉) | |
・Biomarker、d18O (池原・河村) | |
15:15 - 15:30 | <休憩> |
15:30 - 16:30 | 総合討論 (まとめと今後の進め方) |