オホーツク海氷の実態と気候システムにおける役割の解明

研究代表者 若土 正曉

  1. 基本構想
  2. 研究の内容
    1. 海氷の消長過程
    2. 北太平洋中層水の起源水の生成機構
    3. 海氷変動とそのインパクト
    4. 大気-海洋相互作用
  3. 研究の実施体制
  4. 研究実施期間
  5. その他
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  1. 基本構想

    高緯度海域に広く分布する海氷が、世界の気候に大きな役割を果たしている 事はよく知られている。なかでも、オホーツク海は地球上で最も低緯度に位置 する海氷域であり、地球温暖化の影響が最も顕著に現れる場所として、近年特 に注目されている。また、オホーツク海は北太平洋中層水の起源水域であり、 二酸化炭素の吸収域、高生物生産域など物質循環の見地からも重要な海域であ る。本研究では、ロシアの協力によりロシア船を用いたはじめての本格的な海 洋観測を 1998 年より 3 年間実施し、オホーツク海における海氷の実態と気 候システムにおける役割を解明する。

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  2. 研究の内容

    オホーツク海が今だに未開拓な、チャレンジングな研究対象域として残されて いる最大の理由は、旧ソ連との種々の制約や海氷の存在が船を用いた現場での 観測を拒んできた事による。本研究では、ロシアの協力により、今まで進入す ることさえ不可能であった海域も含めた、オホーツク海ほぼ全域の海洋観測の 実施に最大の重点を置く。解決すべき主な研究課題として、次の四項目を挙げ る。

    1. 海氷の消長過程
    2. 北太平洋中層水の起源水の生成機構
    3. 海氷変動とそのインパクト
    4. 大気ー海洋相互作用
    近年、寒冷海域でも有効な観測機器がいくつも開発・使用され大きな成果がも たらされつつある。我々もそのような観測機器を用いた現場での観測を中心に、 上記の研究目標を達成したい。それぞれの研究内容や具体的な研究手法は以下 のとおりである。
    1. 海氷の消長過程

      オホーツク海の海氷が、最初にどこで形成し、どのように発達し、やがて消滅 していくのか、といった海氷域の拡大・後退過程については、人工衛星の情報 から今でも知ることが出来る。しかし、海氷がそこで形成したものか、それと も他から移流してきたものかは、衛星画像では区別がつかない。また、海氷の 変動を定量的に理解するためには、「厚さ」や「移動速度」などの情報が不可 欠であるが、これらを衛星情報から得ることは出来ない。 本研究では、海氷の実態を定量的に観測するために、「移動方向・速度」を連 続的に測定できる ADCP や、「厚さ」を測定できる ULS (Upward-Looking Sonar) 等からなる係留系を、海氷の主要な漂流経路にあらがじめ何台か設置 しておく。また、低緯度のオホーツク海で海氷が形成する主な原因の一つと言 われている、「海洋二重構造の存在」を確かめるだけでなく、海氷の消長によ る海洋構造の変化を調べるために、海氷形成前と消滅後の海洋観測を実施する。 さらに、海氷の消長と密接に関連している、海洋表面から海底への炭素フラッ クスや高生物生産性のメカニズムを解明するために、セジメントトラップを用 いた係留観測を行う。これらの観測から、鉛直方向の炭素フラックスだけでな く、海氷底面に分布するアイスアルジー、海氷の融解水、アムール河からの流 出水等の高生物生産性との関連性が明らかになる。 これらオホーツク海全域の現場観測は、今のところ冬を除いた時期に実施せざ るを得ないが、北海道沿岸沖では、冬季海氷域の海洋・海氷観測を既に第一管 区海上保安本部水路部との共同観測として実施している。これら船上観測と並 行して過去の海象データやリモートセンシングによるデータ等の解析、さらに は海洋ー海氷結合モデルを用いた数値実験等も行う。

    2. 北太平洋中層水の起源水の生成機構

      最新の物理・化学的研究から、北太平洋中層水の起源域がオホーツク海である と広く認識されている。北太平洋中層水は塩分極小を特徴とする水で、北太平 洋の水深 300 - 800 m あたりに広く分布している。ところが、北太平洋には この水をつくるための沈降する場所が冬でさえどこにもなく、オホーツク海に のみ存在する。つまり、オホーツク海は北太平洋における大気と中層水とを結 ぶ"唯一"の開かれた窓になっている。このことは、オホーツク海の表層の情報、 例えば大気から吸収した二酸化炭素などが、起源水とともに北太平洋ほぼ全域 の中層に輸送されることを意味している。 オホーツク海は、海氷形成・融解による熱と塩の再分配を通して、また、太平 洋水、アムール河水、宗谷暖流水等の流入によって特徴的な水塊が生成する海 域として知られている。このため、オホーツク海が北太平洋中層水の起源域で あることは充分考えられる。そこで、我々は今まで未解明の、オホーツク海に おける海洋循環とその季節変動、さらには各水塊の生成過程等を明らかにする ことを本研究の最大目標にしている。 そのためには、オホーツク海で詳細な海洋観測を実施する必要がある。オホー ツク海ほぼ全域における水温、塩分はもちろん、溶存酸素などの化学成分の面 的情報や、いくつかの鍵を握る重要な海域での流向・流速の長期連続情報など を得るために、CTD 観測、採水、係留観測などを行う。そのような海洋物理・ 化学的観測によって、北太平洋中層水の起源水が、オホーツク海のどこで、ど のように、どれだけの量生成し、そのうちどれだけの量の水が太平洋に流出す るのかを我々は知ることが出来るし、その起源水とともに輸送される二酸化炭 素のフラックスや物質循環も評価することが可能になる。

    3. 海氷変動とそのインパクト

      北半球の海氷域の中で、オホーツク海の海氷面積の年々変動が最も大きく、そ の変動の影響は遠くアラスカ付近にまで及ぶとの最新の研究もある。地球の温 暖化あるいは寒冷化などといった気候の変化に対して、低緯度海氷は最も鋭敏 に反応する可能性があり、その点からもオホーツク海における海氷の変動を正 しく把握することは重要である。人工衛星に搭載のマイクロ波放射計による海 氷密接度の情報から、オホーツク海の海氷面積の最近 20 年間ほどの変動は明 らかになってきた。 よく知られているように、海底堆積物の中には過去 10 万年、20 万年の気候 の変化が記録されている。特に、オホーツク海の海氷の変動は、その海底堆積 物の中に分布するアイスアルジーの量で知ることが可能である。本研究では、 ピストンコアラーを用いて、オホーツク海の海氷域の拡大過程における、いく つかの鍵となる海域から海底堆積物コアをサンプリングし、種々の化学分析を 行い、過去 10 万年程度のオホーツク海の海氷変動のトレンドを評価し、将来 予測に役立てたい。

    4. 大気-海洋相互作用

      本研究の当面の研究対象を、夏季のオホーツク高気圧と、冬季の寒気吹き出し 時の海上境界層に絞る。その理由は、オホーツク高気圧は北海道から東北の冷 夏に深く関わり、寒気吹き出し時の海洋境界層の発達は、海氷の形成と輸送お よび雲と降雪の形成過程に深く関わっているからである。両者は一見異なった ように見えるが、実は背の低い寒気の発達および移流にともなう気団変質を研 究するという意味では同じ現象と見做すことが可能である。 これまで、オホーツク海でゾンデの長期観測が行われたことが無いので、オホー ツク高気圧の鉛直構造や発達過程は未解明のままである。本研究では、アジア 地域で大規模な大気・水循環観測を実施する予定の GAME と同時期にオホー ツク海でのゾンデ観測を中心とした大気の観測を行う。 一方、寒気吹き出し時に海洋上でしばしば筋状雲が形成される。この組織化さ れたメソスケールの流れ (ロール状対流がその典型的な例) によって、大気- 海洋間の熱・運動量交換がなされる。この寒気吹き出し時の海氷域から海洋上 にかけての大気ー海洋相互作用を明らかにするため、ロシア航空機を用いた大 規模観測を 2000 年 1 月に実施する。また同時に、本研究では基礎データを 得るために北海道沿岸付近の、特に筋雲がよく発生する噴火湾や流氷接岸時の 紋別などで、船、航空機、地上からの大気観測を行う。

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  3. 研究の実施体制

     

    本研究を推進していくにあたって、少なくとも最初はグループ制をとらない。 本研究グループは、上に挙げたように、いろいろな研究組織から構成されては いるが、異なった研究分野の専門家が、「オホーツク海氷の実態解明」を共通 目標においた観測に、いろいろな研究手法を用いたアプローチで取り組めば、 より深い、そして総合的な理解が得られるものと確信している。

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  4. 研究実施期間

    平成 9 年 10 月から平成 14 年 10 月 (5年間)

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  5. その他

    本研究を推進していく上で、現場観測を成功させることが何よりも重要である。 特に、係留系観測等からいかに貴重なデータが得られるかが、本研究成功の鍵 を握っているといっても過言ではない。ロシア船を用いた観測は、平成 10 年 から 3 年間継続して実施するが、係留系による観測は最初の 2 年間しかチャ ンスがない。このような本研究の特殊性をご理解頂き、研究実施期間丸 5 年 のうち、前の方に重点をおいた予算配分にして頂けるよう御配慮を切にお願い したい。

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