北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H21, H22

H22-2 葉緑体における葉緑素合成とビタミンE合成の両方に必要なタンパク質を同定
H22-1 ステート遷移の可視化に成功─植物の強光防御メカニズムに迫る─
H21-3 昆虫の自然免疫─カビを認識する蛋白質の立体構造
H21-2 鉄の集積を伴う彩雪現象への微生物の関与
H21-1 北方林の土壌による大気メタン吸収と林床植生

北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H22-2

研究課題

葉緑体における葉緑素合成とビタミンE合成の両方に必要なタンパク質を同定

研究者

田中 亮一1、Maxi Rothbart2、岡 征子3、高林 厚史1、高橋 香織1、柴田 勝4、明賀 史純5、本橋 令子6、篠崎 一男5、Bernhard Grimm2、田中 歩1

  1. 北大・低温研
  2. Humboldt University
  3. 北大・創成
  4. 長岡高専
  5. 理研
  6. 静岡大
内容

葉緑体は、光合成をおこなう細胞内小器官(オルガネラ)としてよく知られていますが、光合成以外にも、いくつもの重要な機能を持っています。例えば、ビタミンA、ビタミンE、脂質、葉緑素、などは、葉緑体で合成されます。これらの物質は、葉緑体内のさまざまな酵素によって合成されていますが、酵素だけがあれば、過不足なく合成される訳ではなく、これらの酵素をきちんとコントロールするタンパク質が必要であると考えられています。

今回、私たちは、葉緑素(クロロフィル)とビタミンE合成の両方に必要なタンパク質を同定しました。このタンパク質は、LIL3という名称で、酵素として働くのではなく、何らかの形で酵素を助け、制御する事によって、葉緑素とビタミンEの合成に関わっていると考えられます。とくに、LIL3は、葉緑素とビタミンE合成の両方に関わるゲラニルゲラニル還元酵素と相互作用して、ゲラニルゲラニル還元酵素の蓄積を促進することがわかりました。LIL3を失ったシロイヌナズナの変異体は、葉緑素の構造に異常をきたし、ビタミンEの合成もできなくなるため、葉が黄緑色になり、成長も遅れることがわかりました。(図1)

面白いことに、LIL3というタンパク質は、光合成において光を捕集するLHC (Light-harvesting complex) と類似の構造を持っています。LHCと類似の構造をもつタンパク質は、原核生物にも真核生物でたくさん見つかっています。このうち、光合成に関与するLHCの機能はよく研究されていますが、光合成に関与しないLHC類似タンパク質の機能については、あまりよくわかっていません。今回の研究は、これらのLHC類似タンパク質の機能解明につながると期待されます。

図1. 野生型(左)とLIL3タンパク質を欠く変異型のシロイヌナズナ

発表論文
公表日

2010年9月7日

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H22-1

研究課題

ステート遷移の可視化に成功─植物の強光防御メカニズムに迫る─

研究者

岩井優和1,横野牧生1,稲田のり子2,皆川純1

  1. 北海道大学・低温科学研究所
  2. 奈良先端大院・バイオサイエンス研究科
内容

植物は,動物と違い,好ましくない環境から逃げることも,好ましい環境に近づくこともできません.そこで,さまざまな環境に器用に適応しながら生きています.植物が持つ光エネルギー変換反応─光合成─も,光の量や色の変化に合わせてダイナミックに調節されます. “ステート遷移”もそのような光合成の環境適応機構の一つです.葉緑体チラコイド膜上の2つの光化学系にバランス良く光エネルギーを配分するため,ステート遷移が起こり,光を集めるタンパク質(アンテナ)が光化学系1と光化学系2の間を移動します.これにより,植物は置かれた環境に応じてもっとも効率の良い光合成が実現できるのです.

今回私たちは,光化学系2のアンテナがはずれ光化学系1へと移動する過程を,FLIM(蛍光寿命イメージング顕微鏡法)と呼ばれる新しい技術を用いて観察しました.多くのアンテナを結合した光化学系2を持つ状態の緑藻に青色光を当てると,アンテナクロロフィルのエネルギー寿命は170-ps (ピコ秒)から250-psへと変化しました(図1).これは,アンテナが,光化学系2からはずれたことを示しています.これまで「ステート遷移によってアンテナは移動する」と言われてきましたが,その移動を実際に“見た”のは初めてのことです.

さらに,このはずれたアンテナは互いに凝集する傾向にあること、そしてそのエネルギー寿命が常識を覆すほど短かった(250-ps)ことから,光化学系2からはずれたアンテナは,凝集構造を作りエネルギーをクエンチ(安全に消去)する性質を持っていることもわかりました.これまで,過剰な光を浴びた植物が,どのようにして安全にそのエネルギーを捨てているのか謎でしたが,今回見つかったアンテナタンパク質の凝集体はその問題を解く鍵にもなりそうです.

図1. FLIMで見たステート遷移の進行.大きな光化学系2アンテナを持つ細胞では170-ps(青)の成分が優勢だが (0 min),アンテナが光化学系2からはずれるに伴い,250-ps(赤)の成分が優勢となった (5 min).250-psの成分は均一には広がらず塊を作る.1個の緑藻クラミドモナス細胞(灰色)をFLIMで観察した(スケールバー, 5 μm).

発表論文・公表日

本研究成果は,米国の科学誌『全米科学アカデミー紀要(PNAS)』(2月2日付)に掲載されました.

なお上記論文は同誌の”Most interesting research articles”に選ばれ,David Kramer博士(ワシントン州立大)によるCommentary(解説記事)も発表されています.

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H21-3

研究課題

昆虫の自然免疫─カビを認識する蛋白質の立体構造

研究者

落合 正則1、高橋 清大2、久米田 博之2、堀内 正隆2、小椋 賢治2、芦田 正明1、稲垣 冬彦2

  1. 北海道大学低温科学研究所
  2. 北海道大学薬学部
内容

昆虫は地球上で海洋を除くほとんどの陸地に生息しており、多様な生活環境に適応している。昆虫が地球上でもっとも繁栄している動物群に成りえた理由のひとつとして、様々な環境に存在する病原菌に対抗できる強力な生体防御系をもっていたためと考えられている。脊椎動物にみられる抗体の多様性を利用した獲得免疫をもたないにもかかわらず、無脊椎動物である昆虫の生体防御系が強力なのはメラニン形成系、抗菌ペプチド誘導合成系、血球細胞による捕食、包囲化などの自然免疫が機能的に発達しているためである。

昆虫がカビなどの真菌に感染した場合、昆虫体液中のβ-1,3-グルカン認識蛋白質(βGRP)という異物認識を担う蛋白質が反応する。カビの表面近くには細胞壁に含まれるβ-1,3-グルカンという糖があり、βGRPはこの糖に結合する。βGRPがカビを認識したというシグナルは複数の蛋白質の連鎖的反応により増幅され、カビ周囲にメラニンが形成される。異物周囲のメラニン形成は異物を物理的に隔離するとともに拡散を防ぐ意味がある。また、微生物の増殖を抑える抗菌ペプチドを合成する経路にカビ認識シグナルは伝わり、合成開始のスイッチが入ることがわかっている。すなわち、βGRPは昆虫のカビ感染に対する生体防御反応において非常に重要な蛋白質であるといえる。

βGRP中のβ-1,3-グルカンを認識する領域(ドメイン)が102残基のアミノ酸からなることは明らかになっていたが、その立体構造や結合様式は不明のままであった。本研究では自然免疫における異物認識の分子機構を探る目的の一端として、βGRPのβ-1,3-グルカン認識ドメインの立体構造を解析し、NMRによる滴定実験、表面プラズモン共鳴分析、変異体のリガンド結合能比較を行った。その結果、このドメインはIg様の立体構造をしており、通常よくみられる糖結合タンパク質の結合ドメインとは異なる様式でβ-1,3-グルカンの三重らせん構造に結合することをはじめて明らかにした。

図1. カイコ右半身に人為的に傷害を与え、カビ細胞壁成分であるβ-1,3-グルカンを塗布した。塗布部分はβGRPのβ-1,3-グルカン認識によりメラニン形成系が活性化し、メラニン化(黒化)している。

図2. βGRPのβ-1,3-グルカン認識ドメイン(灰色)と三重らせんβ-1,3-グルカン(青、橙、マゼンタ)

発表論文
公表日

2009年7月

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H21-2

研究課題

鉄の集積を伴う彩雪現象への微生物の関与

研究者

小島 久弥1、福原 晴夫2、福井 学1

  1. 北海道大学低温科学研究所
  2. 新潟大学教育学部
内容

微生物の増殖などにより、積雪が特徴的な色を呈する現象(彩雪現象)は世界各地で観察されている。積雪の着色は太陽光の反射率を減少させ、熱吸収を高めることにより融雪を加速させる効果がある。尾瀬地方では例年、融雪時に積雪が赤褐色化する現象が見られ、アカシボと呼ばれている。アカシボの赤褐色は積雪中に集積された酸化鉄の色に由来しており、この特徴は他の彩雪現象とは大きく異なるものである。未だ解明されていないアカシボ発生の機構を探るため、積雪中に存在する微生物に関する調査を行った。赤褐色を呈した積雪からは、メタン酸化細菌と鉄還元菌が検出された。これらの微生物の分布は、それぞれが消費・生成する物質の分布と対応していた。アカシボ現象の発生には、メタンと鉄に関連する微生物が関与していることが示唆された。微生物の活動が積雪の性質を変化させ、融雪を加速させることで周辺環境に影響を及ぼす例として非常に興味深い。

図1. 尾瀬沼のアカシボ

図2. 酸化鉄で着色された積雪表面

発表論文
公表日

2009年7月

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H21-1

研究課題

北方林の土壌による大気メタン吸収と林床植生

研究者

堤 正純1、小島 久弥1、植村 滋2、小野 清美1、隅田 明洋1、原 登志彦1、福井 学1

  1. 北海道大学低温科学研究所
  2. 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
内容

メタンは強力な温室効果を持つガスであり、その大気中濃度は気候に対して大きく影響すると考えられている。森林土壌は大気中のメタンを吸収する働きを持っているが、これは土壌中に生息するメタン酸化細菌の活動によるものである。本研究では、植生の異なる地点で森林土壌のメタン吸収能力を測定し、そこにどのようなメタン酸化細菌が生息しているかを比較した。北海道大学雨龍研究林内の4地点において、大気から土壌へのメタン吸収速度を現場で測定した。その結果、林床のササを人為的に除去した区画において他地点より2倍程度高い吸収活性が認められた。実験室に持ち帰った土壌を用いた実験でも同様の結果が得られた。各地点の土壌中に生息するメタン酸化細菌を解析した結果、高木層の植生よりも林床植生の状態(ササの種類および有無)の方が、メタン酸化細菌との関わりが深いことが示唆された。従来、森林でのメタン吸収と植生の関係については専ら樹木に注目した研究がなされてきた。本研究の結果は、メタン吸収量を見積もる際に林床植生を考慮に入れることの必要性を示すものであり、地球規模でのメタン動態を正確に把握し、その気候への影響を予測する上でも重要なものと考えられる。

図1. 調査を行った4地点の様子。右端がササ除去区。

図2. メタン吸収測定用チャンバー

発表論文
公表日

2009年2月

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