北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H20

H20-6 空を舞うアメーバ 〜変形菌類の分散戦略〜
H20-5 不凍糖タンパク質の氷結晶界面吸着機構の解明
H20-4 南極海での海氷生産工場をつきとめる! 世界で一番重い水ができる場所!
H20-3 北海道・然別山地の岩海斜面に分布する越年地下氷の形成年代と起源の解明
H20-2 宇宙におけるH2O生成メカニズムの解明
H20-1 氷星間塵表面で生じる化学反応における表面構造の効果

北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H20-6

研究課題

空を舞うアメーバ 〜変形菌類の分散戦略〜

研究者

加茂野晃子1、小島久弥1、松本淳2、河村公隆1、福井学1

  1. 北海道大学低温科学研究所
  2. 福井総合植物園
内容

変形菌類(真正粘菌)は、アメーバの仲間で、主に森林に生息しており、落葉や倒木などの上でみつかることが多い。古くは、南方熊楠が魅せられた生き物であり、近年では、迷路の中で最短のルートを探し当てることのできる単細胞生物としても知られるようになった。しかし、その生態はベールに包まれている。

変形菌類がアメーバ状の形をしているのは、細菌などを捕食し生長する時期である。こうした時期はふたつあり、胞子(直径約10マイクロメートル)が割れると現れるアメーバ状細胞と、その接合により生じる変形体がある。変形体は単一細胞のまま生長し、1平方メートル以上に巨大化する場合もある。そして十分に生長すると、多数の胞子を内包する子実体へと変身する(図1)。胞子をつくる他の生物と同様に、変形菌類にとって、胞子の散布は生息場所を広げる上で重要である。子実体の形などからみて、胞子は主に風により飛散していると考えられている。

本研究では、低温科学研究所の屋上で捕集したエアロゾル粒子(空気中に浮遊する微粒子)から変形菌類のもつDNAを検出し解析することで、空気中に浮遊する変形菌類種の季節的変動を捉えることに初めて成功した。多くの変形菌類では、子実体をつくる季節(つまり、胞子をつくる季節)がある程度決まっていることがわかっている。本研究では、子実体をつくる時期と対応するように、変形菌類が空気中に現れるというパターンがみられた。その顕著な例として、残雪の周りで子実体をつくる好雪性変形菌類は、春の雪融けの頃にのみ空気中での存在が認められた。こうしたパターンから、実際に、新しくつくられた胞子が風により飛散していることがわかった。子実体をつくることができるアメーバは稀であり、変形菌類は「空を舞うように進化してきたアメーバ」と言えるかもしれない。

図1. 北大近辺で観察される変形菌類の子実体.ハイカタホコリ(左)とシロエノカタホコリ(右).スケールは 1 mm.

図2.風による胞子の飛散に着目した変形菌類の生活環の概略.

発表論文
公表日

2008年10月

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H20-5

研究課題

不凍糖タンパク質の氷結晶界面吸着機構の解明

研究者

ゼペダ・サルバドール1,横山悦郎2,宇田幸弘1,片桐千仭1,古川義純1

  1. 北海道大学低温科学研究所
  2. 学習院大学計算機センター
内容

海氷の下の氷点下の海水中に住む魚は、血液内に含まれる不凍糖タンパク質(AFGP)や不凍タンパク質(AFP)と呼ばれる特殊なタンパク質の働きにより、死に至る生体凍結を免れている。これは、氷と水の界面にタンパク質分子が強く(不可逆的に)吸着するため、いわゆるギブス・トムソン効果と呼ばれる物理現象により、氷の結晶成長が抑制されるためと考えられてきたが、実験的な裏づけは十分ではなかった。

我々は、AFGP分子に蛍光物質でラベルをつけて、氷の結晶成長にともないAFGP分子がどのような挙動を示すかを観察した。その結果、AFGP分子の界面への吸着は、最初は弱い吸着状態(不完全吸着)で界面にくっつき、その後強い吸着状態(完全吸着)へと移行することが明らかになった。さらに、完全吸着といっても可逆的に吸着状態からの離脱が起こることが明らかになった。この実験結果をもとに、AFGPの新しい界面吸着メカニズム(2段階可逆吸着メカニズム)を提案し、従来信じられていたギブス・トムソン効果によるしくみとは異なる氷結晶成長抑制機構を明らかにした。

発表論文
公表日

2008年9月12日

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H20-4

研究課題

南極海での海氷生産工場をつきとめる! 世界で一番重い水ができる場所!

研究者

田村岳史、大島慶一郎、二橋創平

内容

海氷(海水が凍った氷)が生成されるとき、海水の塩分の大半は氷から吐き出されるので、塩分の高い重い水が作られる。南極海の沿岸近くでは大量の海氷が生産されるために、この時に作られる重い水は、海底に沈みこみ、世界で一番重い海水である南極底層水として、世界中の底層に拡がっていく。海氷生産が大きい所で重い水が作られるわけであるが、どこでどのくらい海氷が生産されているかはよくわかっていなかった。

本研究は、人工衛星データに現場観測・気象データも組み合わせて、南極では初めて海氷の年間生産量の空間分布(マッピング)を示したものである。最も海氷生産が高い海域はロス海であり、ここが最も高塩の南極底層水の生産域であることによく対応する。ロス海に次ぐ高い海氷生産領域が日本の南極昭和基地東方約1200kmにあることもわかった。ここが未知の南極底層水生成域である可能性が示され、それを確かめるべく、ここでの集中観測が計画されている。

南極海における年間累積海氷生産量の空間分布(1992-2001年で平均)。赤・オレンジで示した海域が海氷生産量が大きい場所。

発表論文
公表日

2008年4月

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H20-3

研究課題

北海道・然別山地の岩海斜面に分布する越年地下氷の形成年代と起源の解明

研究者

澤田結基(現在の所属:産業技術総合研究所・地質標本館)

内容

然別山地には粗大な岩塊が堆積する岩塊斜面が広く分布しており、風穴にともなう高山植生など特異な生態系が見られる。岩海斜面の空隙には越年地下氷が存在することが、先行研究で明らかになっていた。本研究では、ボーリング調査によって深さ約4mまでの地下氷と堆積物のサンプルコアを取得し、コアの記載、氷に混入する有機物(葉片、枝、エゾナキウサギの糞)の放射性炭素同位体による年代測定、および氷の酸素・水素同位体比の測定を行った。

年代測定の結果、氷資料の下部に含まれていた葉片の年代は約3700〜4000年(4065〜3728 Cal BP, 2-σ range)を示すこと、氷の上部ほど有機物の年代値が新しいことが判明した。葉片や茎などの有機物はいずれも新鮮な形態を示し未分解であることから、長期間にわたって氷に取り込まれていたと考えられる。したがって有機物の年代値は、それらを保存していた氷の形成年代を示す可能性が高い。

また、氷の酸素・水素同位体比は、δ18O-δDプロッ ト上で、現地の積雪と降雨サンプルの値に沿って分布する。このことから、氷の起源が降水であると考えられる。本研究で調査した越年地下氷は、北海道東部やヨーロッパのジュ ラ山地、アルプス山脈など中緯度の山岳地域で分布が知られている。このような越年地下氷は過去の降水や有機物を保持する媒体となっており、完新世の気候変動を復元する新たな手がかりになると期待される。

掘削と地下氷変化の観測で明らかになった岩塊斜面下部の地下構造。深さ約1.2〜1.5mには融雪期に成長して秋までに融ける氷があり、その下に古い氷が保存されている。

発表論文
公表日

2008年6月

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H20-2

研究課題

宇宙におけるH2O生成メカニズムの解明

研究者

宮内直弥,日高宏,千貝健,長岡明宏,渡部直樹,香内晃

内容

水分子は地球上に多く存在し,すべての生命にとって非常に重要な分子である.地球の外に目を向けても,太陽系内にも大量の氷で覆われた惑星や衛星も存在しており,宇宙物理学,天文学にとっても水の重要性は極めて高い.水分子が宇宙で初めて大量に形成されるのは宇宙の極低温領域(分子雲)に浮遊する星間塵表面上であるが,その反応過程の詳細は明らかではなかった.理論的研究では,極低温星間塵表面における酸素分子-水素原子反応であることが示唆されてきたが,実験的な裏付けは得られていなかった.

今回,我々は実験装置内に分子雲に近い環境を再現し,10K(-263℃)の酸素分子固体表面に100Kの水素原子を照射する実験を行った.実験の結果,極低温環境下にもかかわらず,水分子が非常に効率的に生成されることが明らかになった.また,生成された水分子は固体表面でアモルファス氷を形成することもわかった.この結果は,分子雲内のH2O氷がアモルファス状態であるという天文観測と一致している.本研究により,宇宙における水分子の起源を初めて実験的に明らかにすることができた.

発表論文
公表日

2008年4月

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H20-1

研究課題

氷星間塵表面で生じる化学反応における表面構造の効果

研究者

日高宏,宮内直弥,香内晃,渡部直樹

内容

宇宙空間の極低温領域には氷微粒子(氷星間塵)が大量に存在しており,水素分子,水分子,有機分子生成の母胎になっている.氷星間塵表面はクラック・空孔をもつ複雑なアモルファス構造をとっており,その構造が表面で生じている化学反応にどのような影響を与えるのか,これまで謎であった.そこで,表面構造が大きく異なる15Kのアモルファス氷と結晶氷表面を用いて有機分子生成実験を行ったところ,アモルファス氷表面上では結晶氷表面に比べて反応がおよそ10倍速く進行することが明らかになった.このことから,アモルファス構造を持つ氷星間塵表面は,宇宙における分子進化にとって極めて都合の良い構造を持っていると言える.

発表論文
公表日

2008年4月

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