北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H18, H19

H19-3 西部北太平洋亜寒帯域の生物生産を支える鉄分はオホーツク大陸棚から中層水循環によって運ばれていた!
H19-2 春季の黄砂発生と成層圏から対流圏への物質移流は経年的に強くつながっている可能性を提示!東アジアを中心とした春季低気圧活動の経年変動が重要!
H19-1 オホーツク海から北太平洋の中層で、過去50年間における地球上最大級の昇温化トレンドが発見された!生物生産性豊かな海に黄信号!
H18-3 惑星形成の「実験室」: がか座ベータ星の塵円盤からの赤外線の偏り
H18-2 短波海洋レーダによる宗谷暖流の観測
H18-1 植物の光合成反応の効率化の仕組み

北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H19-3

研究課題

西部北太平洋亜寒帯域の生物生産を支える鉄分はオホーツク大陸棚から中層水循環によって運ばれていた!

研究者

西岡 純1,2,小埜恒夫3,斉藤宏明4, 中塚 武1,武田重信5,芳村 毅2, 鈴木光次6,久万健志7,中林成人8, 津旨大輔2,三寺史夫1,W. K. Johnson9, 津田 敦10

  1. 北海道大学低温科学研究所
  2. 財)電力中央研究所
  3. 北海道区水産研究所
  4. 東北区水産研究所
  5. 東京大学大学院農学生命
  6. 北海道大学大学院地球環境科学研究院
  7. 北海道大学大学院水産科学研究院
  8. 海洋開発機構
  9. カナダ海洋科学研究所(IOS)
  10. 東京大学海洋研究所
内容

鉄が海洋の基礎生産の制限要因になり得ることから,基礎生産の変動メカニズムを解明するためには,海洋表層への鉄の供給量と基礎生産者である植物プランクトンの増殖との関係を定量的に評価していく必要がある。

これまで,陸から離れた外洋域の表層では,鉄の供給源は大気中のエアロゾルが主であると考えられてきた。

これに対して我々の研究結果は,豊かな生態系をもつ親潮海域および西部北太平洋亜寒帯域において,新たな鉄の供給過程を示した。オホーツク北西部陸棚域の低温・高密度の中層水(DSW:Dense Shelf Water)とその影響を受けて形成される北太平洋中層水(NPIW:North Pacific Intermediate Water)には,オホーツク海大陸棚で鉄を含む多くの物質がとりこまれ,オホーツク海から親潮域・西部北太平洋へ物質を輸送する役割を持つことが明らかになった。また,この輸送された物質に含まれる鉄分が,冬季の鉛直的な混合によって表層へ回帰し,親潮海域および西部北太平洋亜寒帯域の基礎生産を支えていることが分かった。「環オホーツク海域」の豊かな生態系を生み出すメカニズムを明らかにするためには,従来より研究されてきた大気を介した鉄の供給に加えて,縁辺海大陸棚を含めた海洋内の地球化学的な鉄の循環を定量的に把握する必要があることを示した。

図. オホーツク海大陸棚から中層水循環を介して親潮域・西部北太平洋亜寒帯域に鉄が移送されるプロセス(黄色点線は従来から指摘されている大気ダストによる鉄の供給)Journal of Geophysical Research-Ocean, in press (accepted 11 June, 2007)

発表論文
公表日

2007年6月11日受理

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H19-2

研究課題

春季の黄砂発生と成層圏から対流圏への物質移流は経年的に強くつながっている可能性を提示!東アジアを中心とした春季低気圧活動の経年変動が重要!

研究者

安成哲平1, 白岩孝行2, 金森晶作1, 藤井理行3, 五十嵐誠4, 山崎孝治1, Carl Benson5, 本堂武夫6

  1. 北海道大学・大学院環境科学院
  2. 総合地球環境学研究所
  3. 国立極地研究所
  4. 独立行政法人理化学研究所
  5. アラスカ大学
  6. 北海道大学・低温科学研究所
内容

・北太平洋域の物質循環の変動を知るために,2003年にアラスカ沿岸部の標高4100mのランゲル山(62°N, 144°W)で50mのアイスコアを掘削した.

・季節ごとのダスト粒子数及びトリチウムのフラックスを解析した結果,長距離輸送の指標となる1μm以下のダスト(Fine Dustと言う)と成層圏起源トリチウムに経年的な強い相関関係を春季に見出し,特に春季後半に関係が最も強いことがわかった(図1).

・春季には毎年ランゲル山にまで黄砂が長距離輸送されている可能性が高いことがわかった.

・春季東アジアを中心とした低気圧活動の経年変動が,黄砂発生と成層圏から対流圏への物質移流両者の経年変動に大きく関わるという仮説を世界で最初に提出した(図2).

・この結果は,春季に我が国に被害を与える黄砂の発生量が増加すると,同時に成層圏起源のトリチウムや同じく成層圏起源の高酸化・温暖化物質であるオゾンの対流圏移流量が増加することにもつながる可能性を示唆する.

・つまり,今後,地球温暖化に伴った春季の黄砂発生量の変動を予測することは,同時に成層圏から対流圏への物質移流を予測することにもつながり,気候そのものへの影響も評価することにつながるだろうと予想される.今後,黄砂発生と成層圏−対流圏物質交換,両者を同時に評価する研究が今回の研究をきっかけに進展するだろう.

図1. 各季節におけるFine Dust (0.52-1.00 μm),Coarse Dust (1.00-8.00 μm),トリチウムフラックス及びダストとトリチウムの相関関係.(a)春季前半−春季後半,(b)春季後半−夏,(c)夏−秋,(d)秋−冬,(e)冬−春季前半.ダストとトリチウムの相関係数で90%以上の信頼限界の結果を示す.図中の*印は相関係数の計算に使われたデータを示す.

図2. 本研究結果から提示された春季後半の黄砂発生と成層圏−対流圏物質交換の経年的関係の仮説の概略図.黄砂の発生が低気圧活動で活発化すると,成層圏から対流圏への物質の移流も増加するだろうと予想される.アラスカ・ランゲル山のアイスコアはこの情報を含んでいると考えられる.

発表論文
公表日

2007年5月19日

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H19-1

研究課題

オホーツク海から北太平洋の中層で、過去50年間における地球上最大級の昇温化トレンドが発見された!生物生産性豊かな海に黄信号!

研究者

中野渡拓也、大島慶一郎、若土正曉

内容

・オホーツク海を含む北太平洋の中層水(水深約400m−1200m)の水温・溶存酸素量変動を過去50年間にわたってデータ解析した結果、非常に顕著な高温化・貧酸素化の起こっていることがわかった。

・昇温化トレンドは、オホーツク海北西部が最大(0.67度/50年間)で(上図)、その影響は、オホーツク海全域から、親潮域さらには北太平洋北西海域まで海洋循環経路に沿って広がっていた(下図)。

・昇温化の原因は、ここ50年−100年スケールでオホーツク海の海氷生産量が減ったこと、それによる低温の高密度水生成量減少にともなう低温水補給の弱化が大きく影響していると考えられる。

・この高密度水による中層循環システムの弱化は、世界有数と言われるこの海域の高生物生産性や豊かな生態系に重大な影響が出てくるものと懸念される。

図(上)水深約300m−500m層の過去50年間における水温トレンド。(下)その層における流線と顕著な昇温域(オレンジ色)。

発表論文
公表日

2007年1月16日受理

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H18-3

研究課題

惑星形成の「実験室」: がか座ベータ星の塵円盤からの赤外線の偏り

所内研究者

木村宏,山本哲生

所外研究者

田村元秀,周藤浩士,アベリュウ (国立天文台),深川美里 (名古屋大学・カリフォルニア工科大学)

内容

惑星は,恒星誕生の副産物として,若い時期に恒星を取り巻いていた円盤の中から生まれる.恒星が一人前になる過程で多くの円盤は消失してしまうが,いくつかの恒星には多量の塵円盤が残っており,残骸円盤とも呼ばれる.その代表的なものが,南天のがか座にあるベータ星の塵円盤である.円盤を真横から見ている「細長い星雲」について,1984年の最初の撮像以来,数多くの画像が得られている.これは,太陽の約2倍の質量を持つ中心星からの明るい光を,円盤中の塵が反射して輝いて見えている姿と考えられている.

しかし,この円盤からの光の偏りを調べ,その反射光の性質や塵の性質に直接に迫るものは,過去に2例の可視光偏光観測しかなかった.今回,私たちのチームは,すばる望遠鏡に補償光学,コロナグラフ,および偏光装置というコントラストを最大限に高める工夫を世界で初めて3つとも組み合わせて,円盤からの赤外線の偏りを従来より一桁高い解像度(約0.2秒角)で明らかにすることに成功した.その結果,円盤からの近赤外線が反射光であることを直接に確認し,円盤の塵がミクロンサイズの微小「雪だるま」であること,および,円盤がいくつもの小惑星帯からなることを示唆することができた.

この研究は文部科学省特定領域研究「太陽系外惑星科学の展開」の支援のもとに,北海道大学,国立天文台,名古屋大学の共同研究として行なわれた.
以下のサイトもご参照ください.http://www.naoj.org/j_index.html

図1.がか座ベータ星の塵円盤の波長2マイクロメートル偏光ベクトル画像.中心の明るい星はコロナグラフにより隠されています.隠されている黒丸の大きさが,ほぼ太陽系のサイズ(100天文単位)に対応します.偏光の原因が,中心の星からの反射光であることがわかります.偏光の大きさはおおよそ10%程度です.望遠鏡副鏡の影響を受けた部分のベクトルは取り除いてあります.

図2.円盤の偏光の大きさが,中心星からの距離と共にどのように変わるかを図示したもの.北西側・南東側のいずれでも,約100天文単位のあたりの偏光の大きさの減少が見られます.明るさの減少もほぼ同じ位置で見られるので,円盤の塵のもととなる微惑星などの小天体が特に少ない領域に対応すると考えられます.

発表論文
公表日

2006年4月20日

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H18-2

研究課題

短波海洋レーダによる宗谷暖流の観測

研究者

江淵直人,深町康,大島慶一郎,白澤邦男,石川正雄,高塚徹,大坊孝春,若土正曉

内容

宗谷海峡域に設置した3局の短波海洋レーダを用いて宗谷暖流の表面流速を連続的に観測している.レーダの周波数は 13.9 MHz, レンジ方向およびアジマス方向の分解能はそれぞれ 3 km および 5゜で,沿岸から約 70 km の範囲を観測できる.観測された表面流速ベクトルを漂流ブイおよび船舶搭載 ADCP の観測データと比較した.その結果,漂流ブイとの比較では,東西成分,南北成分とも残差の標準偏差は 20 cm/s以下であった.また,船舶搭載 ADCP ともよい一致が見られた.この短波海洋レーダによって,宗谷暖流の短期変動および季節変動が非常によく捉えられている様子が示された.宗谷暖流は夏季に最大表面流速1 m/s 程度に達し,冬季には非常に弱くなる.流速の最大値は岸から20−30 km に位置し,流れの幅は約 40 km であった.宗谷暖流の表面輸送量は稚内−網走の潮位差で表される日本海とオホーツク海の水位差と非常によい相関があることが示された.

この短波海洋レーダシステムの概要および最新のデータは,本研究所のホームページの短波海洋レーダシステムのページ (http://wwwoc.lowtem.hokudai.ac.jp/hf-radar/) を参照されたい.

発表論文
公表日

2006年2月

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H18-1

研究課題

植物の光合成反応の効率化の仕組み

研究者

岩井優和、皆川純

内容

植物が行う光合成において、集められた光エネルギーは直列に並ぶ2つの光化学系により化学エネルギーへと変換される。このとき、光合成反応を最適に行うためには、光化学系Iと光化学系IIの励起のバランスをとらなければならない。励起のアンバランスな状態が長期にわたる場合、遺伝子発現の調節が行われ光化学系IとIIの量比が最適化されるが、実は光化学系IとIIの量比そのものは変えず、両光化学系の集光能力を瞬時に最適化する別の仕組みがある。この仕組みはステート遷移(state transition)と呼ばれてきたが、その分子基盤は長らく不明のままであった。本研究ではこのステート遷移能力が特に発達している緑藻クラミドモナスを研究材料に用いて、光化学系IとIIの巨大タンパク質複合体の解析を行った。その結果、これまで光化学系IIに固定されていると考えられていた3種類のクロロフィル結合タンパク質が、2つの光化学系間を移動している証拠を見出し、これらのタンパク質因子のシャトル輸送に基づく、全く新しいステート遷移の分子モデルを提唱するに至った。

発表論文
公表日

2006 January 10

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