北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス

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H28-2 アザラシによる観測で明らかになった南極底層水の実態
-加速する棚氷融解が底層水形成を抑制する?-
H28-1 オホーツク海の流氷は栄養物質を運び豊かな生態系を支えているのか?
H27-2 Aquariusが観測した海面塩分の精度評価
H27-1 南パタゴニア氷原全域でカービング氷河の末端位置と流動変化を測定
―流動加速を伴った急激な氷河後退が明らかに―
H25-1 オホーツク海による北太平洋物質循環の制御機構 ―縁辺海を介した陸から大洋への繋がり―
H24-1 南極氷河の崩壊により海氷生産量が激減 ~地球規模の海洋大循環にも影響?~
H23 研究トピックス H23-1,2,3,4,5
H22 研究トピックス H22-1,2
H21 研究トピックス H21-1,2,3
H20 研究トピックス H20-1,2,3,4,5,6
H19 研究トピックス H19-1,2,3
H18 研究トピックス H18-1,2,3
H17 研究トピックス H17-1,2,3,4,5,6

北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H28-2

研究課題

アザラシによる観測で明らかになった南極底層水の実態 -加速する棚氷融解が底層水形成を抑制する?-

研究者

Guy D. Williams1, 田村 岳史2, 大島 慶一郎3, 深町 康3, 他

  1. オーストラリア・タスマニア大学
  2. 国立極地研究所
  3. 北海道大学・低温科学研究所
内容

南極海では、多量の海氷生産によって、その際にはき出される低温・高塩分水により世界で一番重い海水、南極底層水が生成されます。南極底層水が沈み込みこむことで、全球を巡る海洋深層循環が作られます。底層水は南極海のどこでもできるのではなく、多量の海氷生産が生じる沿岸ポリニヤ(生成された海氷が風や海流で次々に流されて保たれる疎氷・薄氷域)でその起源水が作られます。しかし、冬季ポリニヤへのアクセスは難しく、底層水がどこでどれくらい生成されるのかは未だ十分にはわかっていません。近年、このような海氷域において、アザラシ等に測器を付けて観測する手法(図1:バイオロギング)が開発されました。特にゾウアザラシは 2000 m 以上も潜るので、底層水の観測にも有効であり、ケープダンレー沖が未知(第4)の南極底層水生成域であることを発見した(Ohshima et al. 2013)際にも一役買っています。ケープダンレー沖は海氷生産が南極で2番目に高いことで底層水が生成されますが、その上流(東側)のプリッツ湾でも3つのポリニヤがありケープダンレー沖に匹敵する海氷生産があります。

今回の研究では、今までに蓄積されたアザラシによる観測データから、これらのポリニヤでも衛星から見積もられる海氷生産量とよく対応する塩分・密度の増加があり、底層水、もしくはケープダンレー底層水の前駆水となるような高密度水が生成されていることが明らかになりました(図2)。しかし、プリッツ湾の背後にあるアメリー棚氷の融解により、高密度水の生成が抑制され、そのためケープダンレー沖ほどの大量の底層水形成には至らないことも同時に示唆されました。近年、南極の棚氷の融解が加速されていることが報告されていますが、それが進むと底層水の形成ひいては深層循環が大きく抑制される可能性を示唆するものでもあります。

H28-2a

H28-2b

図1.ゾウアザラシに水温・塩分を測定する測器を付けて観測する手法(バイオロギング) Photo by Dr. Clive R. McMahon, IMOS Satellite tagging, Sydney Institute of Marine Science.

図2.アザラシデータから明らかになったプリッツ湾での高密度水形成: 湾にある3つのポリニヤ(緑)での高海氷生産で高密度水が作られる一方、棚氷からの融解水(ISW: 青)は高密度水生成を抑制する。これらの兼ね合いでできた高密度陸棚水(DSW)は、西方へ移流されながらケープダンレー底層水へと変質していく。

発表論文・公表日

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H28-1

研究課題

オホーツク海の流氷は栄養物質を運び豊かな生態系を支えているのか?

研究者

漢那直也1,2, 西岡純1

  1. 北海道大学・低温科学研究所・環オホーツク観測研究センター
  2. 北海道大学・大学院環境科学院
内容

冬季に海氷が覆うオホーツク海は、日本が面する海の中で最も豊かな水産資源を持つことが知られています。「オホーツク海の流氷(海氷)は栄養物質を運び豊かな生態系を支えている」との認識が一般に普及していますが、これは本当なのでしょうか?オホーツク海の豊かさを生み出しているのは基礎生産者である植物プランクトンです。植物プランクトンが増殖するためには、光の条件が整う事に加えて、窒素、リン、鉄などの栄養分の供給が必要です。しかし、海氷中の窒素やリンなど主要な栄養塩は、海氷の生成過程で海水中に排出されてしまうため、海氷内の濃度が低いことが分かってきました。つまり海氷は主要な栄養塩の運搬には寄与していないということになります。オホーツク海では、海氷融解後の春季から夏季にかけて、植物プランクトンの大増殖が起こることが衛星観測などで確認されています。冬期の海氷底に生息する藻類(アイスアルジー)の生産に加え、この春季以降の基礎生産が、豊かな海洋生態系を支える要因となっていることは間違いありません。では、海氷は、この春季の植物プランクトンの増殖にどのように役立っているのでしょうか?

我々は、植物プランクトンの増殖に必須な元素である鉄分に着目し、オホーツク海の海氷中の鉄濃度を測定しました。その結果、表層海水にくらべて、海氷中には1-2オーダー高い濃度で鉄分が含まれている事が明らかになってきました。すなわち、海氷は海洋表層で鉄分の運搬に寄与し、海氷の融解過程は、海洋表層へ鉄分を供給していることが分かってきました。しかし、海氷には主に粒子態の鉄分が多く含まれています。そのため、それらが海水中に放出された時に植物プランクトンが使える形態なのかは分かっていませんでした。そこで本研究では、海氷に含まれる鉄分が植物プランクトンに利用できるのか否かを調べるために、海氷が融けた状態を模擬した船上培養実験を実施しました。この実験では、鉄またはオホーツク海の海氷(融解水)を海水へ加えたのちに培養を行い、植物プランクトンの増殖応答、鉄要求量、利用できる鉄分の存在状態などを調べました。その結果、培養海水中の植物プランクトンは、海氷中に多量に含まれる粒子態の鉄分を利用して増殖することが確認されました。つまり、微量栄養物質である鉄分に着目すれば「オホーツク海の流氷(海氷)は栄養物質を運び豊かな生態系を支えている」というのは正しい認識だと考えられます。本研究で得られた成果は、春季オホーツク海の植物プランクトン大増殖を生み出す仕組みを理解する上で重要な知見になると考えています。

H28-1a

図1.海氷で覆われた冬季のオホーツク海。冬季に海の50-90%が海氷で覆われる。

H28-1b H28-1c

図2.左図:培養実験で得られた植物プランクトンの増殖応答。海氷の融け水を培養海水に加えた実験区では、その他の実験区に比べて植物プランクトンの高い増殖応答が得られた。右図:植物プランクトンの一日あたりの増殖速度と培養海水中の溶存鉄濃度との関係。図中のは海氷の融け水を培養海水に加えた実験区を示す。

H28-1d

図3.南部オホーツク海における海氷の輸送と融解に伴う鉄分の供給過程の概念図。春季の海氷融解時に鉄分が海洋表層へ供給され、植物プランクトンに利用されていくと考えられる。

発表論文
公表日

2016年10月

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H27-2

研究課題

Aquariusが観測した海面塩分の精度評価

研究者

阿部 泰人1, 江淵 直人1

  1. 北海道大学・低温科学研究所
内容

史上初の本格的な塩分観測衛星ミッションAquariusは,大気海洋間の淡水フラックスの見積もり精度向上と,それを通した全球規模の水循環システムの理解向上,更には海洋大循環や気候変動に関する理解を深化させることを目的とし,2011年6月に米国宇宙航空局により打ち上げられました.図1に,Aquariusが観測した海面塩分の全球マップの一例を示します.従来から良く知られている海面塩分分布の特徴が,衛星観測によっても捉えられていることが分かります.Aquariusミッションでは,全球水循環に関する研究を遂行するために,1カ月かつ150 kmの時空間スケールで0.20 psu(≒0.2 ‰)の観測精度を持つことを目標としています.しかしAquariusは,海面から射出されたマイクロ波を受信し,その信号を基に海面塩分の値を推定するという間接的な手法を採用しているため,得られた塩分の値が妥当であるかを検討する必要があります.そこで本研究では,Aquarius塩分データを,Argoフロートを含む様々な海洋現場観測データなどと比較することで,その誤差特性と精度を独自に明らかにすることを目指しました.衛星軌道沿いデータを解析したところ,海上風速が強く,海面水温が低い条件下で,Aquariusが観測した海面塩分の精度が低下することが示されました(図2).また,銀河系由来のマイクロ波放射が原因と考えられる季節変動を示す塩分バイアスが,高緯度域で顕著であることが明らかになりました.結果として,赤道域に近い海域では塩分の誤差が最も小さく,緯度が高くなるにつれそれが増加する,という誤差の明瞭な緯度依存性を示すことに成功しました.月平均データを解析したところ,Aquariusプロダクトの誤差は0.22 psuであり,Aquariusミッションの目標精度である0.20 psuまであと一歩であることが示されました.

H27-2a

図1:Aquariusが観測した海面塩分の月平均全球マップ.(a)2012年7月,(b)2013年1月の結果.

H27-2b

図2:塩分残差(Aquarius along-track 海面塩分-Argoフロート表層塩分)の(上段)平均値と(下段)二乗平均平方根を,海面水温(横軸)と海上風速(縦軸)の関数で表したもの.その計算の際に用いたAquarius海面塩分プロダクトは(a)Aquarius Official Release version 3.0,(b)Combined Active-Passive (CAP) algorithm version 3.0,(c)Remote Sensing Systems testbed algorithm version 3.

発表論文
公表日

2014年11月

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H27-1

研究課題

南パタゴニア氷原全域でカービング氷河の末端位置と流動変化を測定
   ―流動加速を伴った急激な氷河後退が明らかに―

研究者

榊原 大貴1,2, 杉山 慎1

  1. 北海道大学・低温科学研究所
  2. 北海道大学・大学院環境科学院
内容

チリとアルゼンチンの南部に位置する南パタゴニア氷原は,南極に次ぐ南半球第二の氷塊です.近年氷原の氷が急速な減少し,海水準上昇に大きな影響を与えています.氷原からは海と湖に多数のカービング氷河が流れ出しており,氷の損失に重要な役割を果たしていると考えられてきました.しかしながら,それらカービング氷河の観測例は限られており,近年の氷河変動とそのメカニズムは理解されていません.そこで本研究では,南パタゴニア氷原全域でカービング氷河の動態を明らかにすることを目的として,主要な28のカービング氷河について1984–2011年における末端位置と流動速度を人工衛星データによって解析しました.解析の結果,氷原全域における氷河の流動速度分布が初めて明らかとなり,いくつかの氷河では年間2 kmを超える大きな流動速度が観測されました(図1a).またほとんどの氷河で,観測期間中の後退傾向が明らかになりました.その中でも,ホルヘ・モン氷河,HPS12氷河,ウプサラ氷河では6 km以上の急激な後退が確認され(図1b),末端後退と同時に流動速度の増加が観測されました.これら3つの氷河では顕著な氷損失が報告されています.したがって,南パタゴニア氷原の質量損失にカービング氷河の流動加速が重要な役割を果たしていることが本研究によって明らかとなりました.この成果は,パタゴニア地域における氷河変動およびカービング氷河の変動メカニズムの理解を推し進めるものです.

本研究は科研費(基盤研究23403006)および環境科学院GCOEプログラムの助成を受けて実施しました。

H27-1

図1.  (a) 2000年から2011年における南パタゴニア氷原全域のカービング氷河流動速度分布.赤枠は急速に後退・流動加速した氷河を,青枠は大きな流動速度が観測された氷河を示しています.(b) 1984年から2011年におけるカービング氷河末端位置の移動距離. 下方向へ1目盛の変化が0.5 kmの後退を示します.

発表論文
公表日

2014年11月

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H25-1

研究課題

オホーツク海による北太平洋物質循環の制御機構 ―縁辺海を介した陸から大洋への繋がり―

研究者

西岡 純1, 中塚 武2, 渡邊 豊3, 安田 一郎4, 久万 健志5, 小川 浩史4, 江淵 直人1, Alexey Scherbinin6, Yuri N. Volkov6, 白岩 孝行1,7, 若土 正曉1

  1. 北海道大学・低温科学研究所
  2. 名古屋大学・環境科学研究科
  3. 北海道大学・地球環境科学研究院
  4. 東京大学・大気海洋研究所
  5. 北海道大学・水産科学研究院
  6. ロシア極東海洋気象研究所
  7. 総合地球環境学研究所
内容

窒素・リンなどが過剰に余っている北部太平洋では、海洋生態系の底辺を支える植物プランクトンの増殖量が微量栄養物質である鉄分の供給量で制御されています。北部太平洋では、これまで陸起源粒子がユーラシア大陸から大気経由で飛来する事が鉄分の重要な供給過程だと考えられてきましたが、北部太平洋の植物プランクトンの増殖量を定量的に説明するには至っていませんでした。本研究では、北太平洋とその縁辺海であるオホーツク海において包括的な観測を実施し、新たな鉄供給過程を発見し全体像を捉えることに成功しました。オホーツク海の大陸棚に堆積していた鉄分は、海氷の生成によって駆動される中層の海洋循環によって北部太平洋まで運ばれます。その途中、高い鉄濃度を持つ水塊は、縁辺海の出口に位置する海峡部で強く混合されることで、北部太平洋の植物プランクトン増殖量を定量的に説明するちょうど良い濃度となって流出し広範囲に広がっていることを突き止めました。この自然界の大規模システムの全体像を定量的に捉えたことは、これまで海洋において理解が不足していた「縁辺海を介した陸と海の繋がり」を理解する上で重要な知見となると考えます。

H25-1

図1 オホーツク海から北部太平洋に移送された溶存鉄の空間分布(カラー表示は溶存鉄の濃度を示す)(WSP:西部北太平洋、ESP:東部北太平洋、DSW:高密度陸棚水、OSIW:オホーツク中層水、OY:親潮、NPIW:北太平洋中層水、Fe scavenging:鉄の除去プロセス)

発表論文・公表日

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北海道大学 低温科学研究所 研究トピックス H24-1

研究課題

南極氷河の崩壊により海氷生産量が激減 ~地球規模の海洋大循環にも影響?~

研究者

田村 岳史1,2,Guy D. Williams2,Alex D. Fraser2,大島 慶一郎3

  1. 国立極地研究所
  2. オーストラリア・タスマニア大学
  3. 北海道大学・低温科学研究所
内容

南極大陸沿岸の海では、海氷生成の際に吐き出される低温・高塩分水によって世界で一番重い水、南極底層水が生成されます。南極底層水が沈み込みこむことで、全球を巡る海洋深層循環が作られます。東南極にある、海に突き出たメルツ氷河の下流(風下)域は、大量に海氷が生産される海域で、南極底層水の主要な生成域の一つとなっています。2010年2月、このメルツ氷河において大規模な崩壊が起こりました。本研究は衛星データを主に用いて、この氷河崩壊後の2010・2011年この海域での海氷生産量が大幅に減少したことを明らかにしました。メルツ氷河が元のように回復するには50年以上かかることを考えると、この急激な変化は、今後数十年にわたってこの海域での海氷生産量の減少、南極底層水の生成量の減少をもたらすことが予想されます。さらには、深層循環の沈み込みの力の弱化を引き起こし、地球規模の海洋大循環や気候システムに影響を及ぼす可能性もあり、その将来予測の上で監視とさらなる分析が必要であると考えます。

図1. メルツ氷河(MGT)周辺での海氷生産量(海氷厚(m)に換算:カラーで表示)の空間分布(上段が2000~2009年の平均値、下段が2011年の値)。赤線がそれぞれのケースでの冬の沿岸線(氷河・定着氷等との境界)の平均値。2011年の海氷生産は、起こる場所も量もそれまでとは全く異なっていることがわかる。

発表論文

なお、上記論文は、Nature Communications ウェブサイトの "注目の論文" に選ばれ、成果が紹介さました。

公表日

2012年5月

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