Climate System Research Group

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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基盤研究(B)一般、H26-H28年度、研究代表

大気中二酸化炭素濃度変化に駆動される新生代後期の全球寒冷化メカニズムの解明

① 研究の学術的背景
◎ 300 万年前に始まる北半球の大規模氷床発達
新生代(過去約6500 万年間)の気候変動は、現在より温暖で氷床量の少ない“温室地球”から両極に氷床が存在する “氷室”地球へと向かう長期的な寒冷化で特徴づけられる(Zachos et al.,2001, Science)。最初に氷床が発達したのは南極(約3400 万年前)で、約300 万年前頃からは北半球のグリーンランドや北米大陸に大規模な氷床が発達し、両極に巨大な氷床が存在する現在の気候状態が確立された。南極に氷床が発達し、その後北半球に氷床が発達する過程において、海洋ゲートウェイの開閉や海洋循環の変化、山脈隆起などが起こっているが、北半球に大規模氷床を急激に発達させた要因や約700 万年前から始まっている寒冷化の原因については、まだ結論が得られていない。特に約300 万年前の北半球における氷床発達の原因については、国内外において活発に議論されており、これまで様々な仮説が提案されている。しかし、全ての仮説について問題点や矛盾点が指摘されている。

◎ 700 万年前に始まる大気中CO2 濃度の低下
申請者は、数年前から新生代後期の長期的な寒冷化に関する課題に取り組み、本申請研究の発案のきっかけとなった2 つの成果を挙げた。①大気CO2 濃度指標であるアルケノンδ13C と有孔虫のδ11B から過去500 万年間の大気CO2 濃度を復元し、北半球氷床発達イベントに大気CO2 濃度の低下が関与していた(Seki et al., 2010, EPSL;現時点で103 回の被引用数、IPCC 第5 次報告書にも引用された)。②過去1000 万年間の表層水温変動復元に基づき、北半球氷床発達イベントの数百万年前から全球的な寒冷化がすでに進行していた(Seki et al., 2012, Paleoceanography)。

上記の2つの成果に加え、申請者は古水温指標によりアルケノン生産深度を精密に求めることでア
ルケノンδ13C-大気CO2 復元法によるCO2 推定値の飛躍的な高精度化を実現した。その結果、通説
(LaRiviere et al., 2012, Nature)と異なり、大気CO2 濃度は過去1000 万年間にわたり気候変動と
強くカップリングしているという知見を得た。同時に、大気CO2 濃度の低下は約700 万年前に始まり、
CO2 濃度低下期に南極の氷床も拡大している可能性があることを見いだした(関ら,未公表)。

◎ 新パナマ・ゲートウェイ仮説の呈示
申請者のこれまでの研究成果および上記の予察研究,ならびに最新の気候モデル実験(Fedorov et
al., 2013, Nature)などから、申請者らは北半球の氷床発達イベントとそれに先立つ全球寒冷化に関する仮説を着想した。すなわち約700 万年前に始まるパナマ海峡の著しい浅化という外部強制力によって南太洋の寒冷化が生じ、それに伴う南大洋のCO2 固定能の増加で大気CO2 濃度の低下が進行し北半球で氷床発達が引き起こされたという「新パナマ・ゲートウェイ仮説」である。つまり、約300 万年前の北半球氷床発達は、約700 万年前から始まる大気CO2 濃度の低下が主因であり、大気CO2 濃度が北半球高緯度で氷床が持続的に形成される閾値(280 ppm;DeConto et al., 2008, Nature)を下回った事によって生じたイベントであると我々は新たに提案する。

② 研究期間内に何をどこまで明らかにするか
本研究では、パナマ海峡浅化と南極圏寒冷化、大気中CO2 濃度低下の関連性を明らかにするために、

(A)南極圏寒冷化に関する古海洋データを得るために、南大洋の海底堆積物コアを対象として、過去1000 万年間の南大洋の水温・水塊構造の時系列データを新たに構築する。

(B)700 万年前に始まる大気中CO2 濃度低下を明確にするために、1000-400 万年前のCO2 復元データを充実させ、過去1000 万年のCO2 記録の決定版を作成する。

(C)パナマ海峡浅化による南大洋の海洋応答を調べるために、気候モデルシミュレーションによるパナマ海峡浅化の感度実験を実施し、海底堆積物データとモデルによる南大洋の応答(水温・水塊構造)を比較し、データを説明する気候条件について解析する。この結果に基づき、申請者らが提案する新パナマ・ゲートウェイ仮説の妥当性を精査する。

③ 当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

申請者が行った過去500 万年間の大気CO2 復元は、世界的に高い評価を受けている(Seki et al., 2010, EPSL;現時点で103 回の被引用数)。また、現在、申請者は、従来のアルケノンδ13C-大気CO2復元法を改良し(アルケノン古水温指標からアルケノンの生産深度を正確に求め、CO2 濃度を推定する際の計算過程にある不確かさを小さくしている),より確度の高いCO2 復元値を得られるようにした。この手法は今後世界をリードしていくと思われ、申請者は、この手法を世界に先駆けて駆使し、過去1000 万年のCO2 記録の決定版を作成するとともに,「北半球の氷床発達はなぜ引き起こされたのか?」という新生代の気候変動における大きな課題に挑戦する。また、本研究で構築する新生代後期のCO2 データは、気候システムの理解だけでなく、地質学や生物相の進化などを理解する上でも、大きな影響をもたらす可能性が高い。

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