低温下光合成応答

寒冷域の植物にとって、光は傷害となることがある

一般的に植物は、「光があたるほど成長がよい」と考えられているが、これは必ずしも正しくはなく、実際は、気温が低い場合や空気が乾燥している場合など条件によっては、強い光が傷害(葉焼けなど)をおこすことが知られている。低温研の原登志彦教授らは寒冷圏においては、特に光傷害の影響が大きく、光傷害の有無が森林の更新にも大きな影響を与えていることを示した (Homma et al., 2003)。寒冷圏の樹木にとって、光傷害を防ぐことは死活問題であると考えられる。しかし、低温下における光傷害の回避機構については、未解明の部分が多い。


図1 冬の常緑樹の光傷害の回避機構はよくわかっていない

低温研の田中歩教授は、冬期の針葉樹が、吸収した光を、何らかの方法で熱として放散することによって、光傷害を回避していることを見いだした (Tanaka 2007)(図1)。この回避機構には、何らかの葉緑体のタンパク質が関わっていると考えられているが、どのようなタンパク質が関わっているか、という点は不明である。また、原登志彦教授らは、イチイの遺伝子発現を調べることによって、Light-harvesting-like protein (LIL)1とよばれる葉緑体タンパク質の遺伝子が、冬期間に大量に発現していることを発見した (Ukaji and Hara 2007)。この結果は、LIL1が、冬期の光傷害の防御に関与することを強く示唆しているが、このタンパク質が、田中教授が発見した現象に関わっているのかどうかは不明である。

葉緑体のタンパク質の機能を探ることが、光傷害の防御を解明することにつながるのではないか


図2 LIL3とゲラニルゲラニル還元酵素(GGR)からなるタンパク質複合体がクロロフィル、トコフェロール、フィロキノンの合成に必須であることが明らかになった

植物には、LIL1以外にもLILとよばれるタンパク質が存在する(そもそもLILという名前は、Light-harvesting proteinとよばれる、光合成のために光を集める役割を果たすタンパク質に構造的に似ている、機能未知のタンパク質群をさす)。低温科学研究所では、これまで、LIL1と類似したタンパク質である、LIL3とよばれるタンパク質の研究をすすめ、LIL3がクロロフィルやトコフェロール(ビタミンE)の合成に重要であることを発見した (Tanaka et al., 2010, Takahashi et al., 2014)。

そのほかにも、LILの仲間であるLIL8は光合成の光捕集の制御になんらかの形で関わっていることが明らかになりつつある (Fristedt et al., 2014, Kato et al., unpublished)。また、理化学研究所環境資源科学研究センターの明賀史純研究員らの研究によって、LIL2/LIL6も光合成の維持に重要であることが明らかになってきている (unpublished)。LILの総合的な研究を通して、低温下における光傷害の防御機構を解明することが本プロジェクトの目標である。また、本プロジェクトでは、草本のモデル植物と樹木を並行して研究していくことで、将来的には寒冷域の樹木の生態のさらなる理解へ貢献することを目指している。

葉緑体タンパク質の機能と光合成を解析するための技術


図3 光合成生物のタンパク質複合体の質量分析による網羅的解析

低温科学研究所では、タンパク質複合体の精製、分離、分析技術を用いて、これまでに光合成生物のタンパク質複合体を網羅的に解析してきた (Takabayashi et al. 2013)(図3)。また、代表的な光合成色素を網羅的に分析する技術も確立している。これらの技術に光合成反応を高速で測定する技術(時間分解クロロフィル蛍光測定:神戸大学、秋本誠志准教授、北大低温研横野牧生研究員)を組み合わせ、葉緑体タンパク質の機能と低温環境下での光合成について理解を深めていきたいと考えている。


プロジェクトメンバー

田中亮一低温科学研究所・准教授
原登志彦低温科学研究所・教授
小野清美低温科学研究所・助教
高林厚史低温科学研究所・助教
加藤由佳子低温科学研究所・技術職員
秋本誠志神戸大学・准教授
明賀史純理研・研究員

本プロジェクトに関するお問い合わせは、田中亮一 (rtanaka[at]lowtem.hokudai.ac.jp)までお願いいたします。
低温科学研究所では、本プロジェクトに関連する研究を行う大学院生を募集しております。詳細は、低温研ホームページ (http://www.lowtem.hokudai.ac.jp)、または、生物適応研究室ホームページ (http://www.lowtem.hokudai.ac.jp/plantadapt/)をご覧ください。

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