北極域氷河氷床変動

プログラムの背景

氷河氷床は地球に存在する淡水の約75%を保持し、地球規模の水循環に重要な役割を果たしています。陸上を覆う氷とその変動が、地形の形成や地殻変動、海水準の変化、地表面の熱収支など、地球環境に大きな影響を与えているのです。

たくさんの氷河を抱える北極域で今、地球で最も急速な気温上昇が起きています。この激しい気候変化の影響を受けて、グリーンランド、北極圏カナダ、アラスカなど、北極域の氷河氷床が氷を失っています。氷の縮小は、陸上の水循環や生態系に大きな変化を与えます。また氷の融け水は土砂と共に海へ流れ込み、海水準を上昇させるほか、海洋の循環や生態系に影響を及ぼします。氷河氷床の変動に起因して、北極域、さらには地球規模の環境に重要なインパクト予想されているのです。


   
図1. 北極域にはグリーンランド氷床の他、たくさんの氷河が分布しています。

プログラムのねらい

私たちは、北極域における氷河氷床の振る舞いと、その変動が北極および地球の環境に与える影響に着目し、野外観測、人工衛星データの解析、雪氷や海水の分析、数値実験などを行っています。特にグリーンランド北西部に位置する最北の村カナック周辺に焦点をあて、氷河氷床の変動を明らかにし、氷河からの淡水や土砂の流入が海洋に与える影響を解明することを目指しています。氷河や海の変化は、グリーンランドに住む人々の暮らしにも影響を与えています。海氷が薄くなって犬ぞりが使えない、海で獲れる魚が変わった...。北極の環境変化がグリーンランドの人々の暮らしに与える影響も、私たちの研究テーマのひとつです。現地での観測に力を入れ、現場でしか捉えられない生のデータを使って、急激で複雑な変化を明らかにしていきます。

   
図2. グリーンランド北西部、カナック地域。600人が暮らすカナック村は7月上旬でも海氷に閉ざされています。

これまでの成果

2011年からスタートしたGRENE北極気候変動研究プロジェクト(http://www.nipr.ac.jp/grene/)に参画し、グリーンランド北西部における氷河氷床変動研究に取り組んできました(文献1)。氷床から海洋へ流出するカナック周辺のカービング氷河は、2000年以降その全てが後退し、一部の氷河では流動加速を伴った急激な後退と氷厚減少が観測されました。2013年から集中的な観測を行っているボードイン氷河では近年の後退加速が明らかになり、海洋との相互作用がその原因と考えられます(図3、文献2)。2014年にはスイス連邦工科大学と共同で氷河の末端部で熱水掘削に成功し、氷河内部と底面の環境に関する新しい知見を得ました。一方、氷床から独立した氷帽は年間1 m以上の速度で氷を失っていることが判明しました(図3、文献3)。気温の上昇に加えて、氷の表面が暗色化して日射エネルギーの吸収量が増えたことも氷帽縮小の要因です(文献4)。

   
図3. (左)グリーンランド北西部で氷床から海洋へ流出するボードイン氷河。
(中)ボードイン氷河の末端は2008年以降急速に後退しました。
(右)カナック周辺の氷帽は年間1m以上の速度で氷を失っています。

今後の計画

2015年から開始予定の新しい北極研究プロジェクトArCSに参画し、これまで推進してきたグリーンランド北西部での研究を発展させます。海洋、海氷、大気、気候、さらには人文社会科学の研究者とも協力し、氷河氷床の変動が北極の環境と人々の暮らしに与える影響に取り組みます。低温科学研究所、および2015年4月に新設された北大・北極域研究センター(http://www.arc.hokudai.ac.jp/)をプラットフォームとして、国内外の研究者との共同研究を推進します。

  
図4. プロジェクトの概念図。大気と海洋の影響を受けた氷河氷床の変動が、北極の環境と人間生活に与える影響を明らかにします。

参考文献

  1. 杉山慎,津滝俊,榊原大貴,斉藤潤,丸山未妃呂,澤柿教伸,2015, グリーンランド北西部における氷帽およびカービング氷河の変動,月刊地球,37(2),9–18.
  2. Sugiyama, S., D. Sakakibara, S. Tsutaki, M. Maruyama and T. Sawagaki. 2015. Glacier dynamics near the calving front of Bowdoin Glacier, northwestern Greenland. Journal of Glaciology, 61(226), 223–232.
  3. 斉藤潤, 津滝俊, 澤柿教伸, 杉山 慎,2014,グリーンランド北西部における氷帽の表面高度変化,北海道の雪氷,33,77–80.
  4. Sugiyama, S., D. Sakakibara, S. Matsuno, S. Yamaguchi, S. Matoba and T. Aoki. 2014. Initial field observations on Qaanaaq Ice Cap in northwestern Greenland. Annals of Glaciology, 55(66), 25–33.

プロジェクトメンバー

杉山慎(低温科学研究所)
深町康(低温科学研究所)
的場澄人(低温科学研究所)
飯塚芳徳(低温科学研究所)
ラルフ・グレーベ(低温科学研究所)
古屋正人(北海道大学)
澤柿孝伸(法政大学)

共同研究機関

国立極地研究所、気象研究所、千葉大学、北見工業大学、スイス連邦工科大学、コペンハーゲン大学、カルガリ大学など

関連リンク

大学院生を募集中

私たちのグループでは大学院生を募集しています。グリーンランド、南極、パタゴニアなど世界の氷河を舞台にして研究してみませんか?

連絡先

杉山慎(すぎやましん),准教授,氷河氷床分野兼任・北極域研究センター兼任
研究棟310号室,TEL 011-706-7441
sugishin_アットマーク_lowtem.hokudai.ac.jp ("_アットマーク_" を "@" に読みかえてください)
http://wwwice.lowtem.hokudai.ac.jp/~sugishin/

ページトップへ