北海道大学低温科学研究所付属
流氷研究施設外部点検評価報告

平成11年3月

外部評価委員の名簿, 評価と提言

外部評価委員会 委員名簿

氏名 所属・役職
池田 元美(主査) 北海道大学大学院地球環境科学研究科・教授
古川 武彦 札幌管区気象台・台長
斎喜 國雄 第一管区海上保安本部・水路部長
内藤 靖彦 国立極地研究所・企画調整官・教授
平 啓介 東京大学海洋研究所・所長・教授
高橋 正征 東京大学大学院総合文化研究所・教授
西尾 文彦 北海道教育大学釧路分校・教授
佐伯 浩 北海道大学大学院工学研究科・教授
前 晋爾 北海道大学大学院工学研究科・教授

評価と提言

平成11年3月20日

北海道大学低温科学研究所 所長 本堂 武夫 教授

当研究施設の点検評価を実施したので、報告いたします。

北海道大学大学院地球環境科学研究科 池田 元美

北海道大学低温科学研究所流氷研究施設点検評価

北海道大学低温科学研究所点検評価委員会
流氷研究施設専門委員会
とりまとめ責任者
 北海道大学大学院地球環境科学研究科 池田 元美

 ヒアリングを平成10年12月16日に実施し、同時に点検評価に必要と思われ る資料を収集した。そこでの議論をもとに、以下の項目について各委員が個別の 報告書を提出した。それを修正なしに報告し、また全体の総括を始めに記した。

点検評価項目

  1. これまでの評価

    1. 創設の経緯
    2. 組織と運営
    3. 研究成果
    4. 施設・設備
  2. 将来の展望

    1. 国際・国内研究者との共同研究を通じて、 施設を利用してもらう効果的な方法は何か。
    2. 流氷レーダーの更新は必要か。特に現存のものから変更するならば、 何が研究推進に有効か。
    3. 大学に所属する施設として、教育的視点は何か。
    4. 社会への貢献として何が考えられるか。

A 総括 北海道大学大学院地球環境科学研究科  池田 元美

  1. これまでの評価

    1. 創設の経緯

       札幌にある北海道大学低温科学研究所の研究施設として、海氷と海洋に焦 点をあてた野外観測を行う目的で1965年に開設された。施設開設と同 時に流氷レーダーの設置に着手し、3年後に完成した。3基のレーダーは、 沿岸から60kmの範囲で流氷の同時観測を可能にした。オホーツク海の 海氷観測という当初の目的は、いまだ温暖化などの議論される以前として は画期的であった。また冷戦時代なので観測船による現場観測は不可能で あり、人工衛星による宇宙からの観測もしばらく実現を待たなければなら なかった。以上のような状況においては、レーダーを観測手段として設置 したことを高く評価すべきであろう。
       また目的としたこととは異 なるが、漁業、海難救助などの社会的貢献をしてきたことも特筆されるべ きである。
       現在考慮すべきは、当初とは全く違う状況で、しかも 限れられた予算の中で、どの方向に改革していくかである。

    2. 組織と運営

       開設当初、施設に配置された人員は少なく、また現在までに拡充されたと はいえ、教授1助教授1という小講座に相当する小さい所帯である。この状況を 考慮すると、施設の行ってきた研究および外部との交流活動は評価されてよい。 しかし、研究対象が広すぎるのではないかという懸念もあるので、現在の陣容が 将来も続くならば研究対象を絞ることも必要となる。
       もっとも評価され るのは「流氷シンポジウム」を10年以上継続してきたことである。参加者も国 際的になり、海氷に関する学術会合として世界に認知されている。紋別市のサポー トが大きな牽引力であるが、同時に地方自治体との緊密な協力関係を築いてきた ことこそ、評価されるべきである。

    3. 研究成果

       研究施設に所属する研究者の成果は標準的である。ただし日加国際共同研 究への参加、フィンランドでの共同研究など、国際共同研究は多伎にわたってい る。また全国共同利用施設として多くの研究者を受け入れ、多くの成果をあげて いる。海氷に関するデータの公表は大学の施設としては画期的である。また蓄積 されたデータも気候変動研究などに有効であることはまちがいない。
       何人 かの委員が指摘していることは、中心的施設である流氷レーダーを用いた学術研 究成果(論文など)が、とくに最近少ないことである。今後も当レーダーを維持 していく場合は、大学の研究施設としてふさわしい成果を期待されてしかるべき である。

    4. 施設・設備

       流氷レーダーのみならず収集されたデータの表示・解析を行う装置がそろっ ている。低温・冷凍実験室、実験・観測機材、移動運搬のための車両は、共同利 用研究施設として不可欠のものなので、今後も留意するべき項目である。もちろ ん常駐研究者がいることが必須であることも明かである。

  2. 将来の展望

    1. 国際・国内研究者との共同研究を通じて、 施設を利用してもらう効果的な方法は何か。

       多くの委員が指摘しているのは

      • 研究のユニークさを示す
      • 環オホーツクという研究対象とそのための基地となる
      • 外国人 (これも環オホーツク) と特別研究員 (PDF) を受け入れる

      ことである。第一点は流氷 シンポジウムを利用して、議論を重ね研究の焦点を定めていくことで実現できる であろう。第二点はこの延長線上にある。ただし、第三点は予算の裏付けがなけ れば実現しない。これまでの国際的活動をいかして、施設における学術研究に国 際性と活気を注入するために、予算獲得を目指すべきである。

    2. 流氷レーダーの更新は必要か。特に現存のものから変更するならば、 何が研究推進に有効か。

       レーダーの利用価値は依然として 高いのは事実である。しかし問題は経費 であり、目的、成果などが大学にふさわしいものである施設でなければならない。 これには2つの道があるようだ。

      • 汎用のものに替える
      • より高度な情報を得られるものにする

       特に後者を目指す場合は利用者、 専門家などによる検討委員会を設置し、十分に 議論をつくすべきである。さらに現在の利用頻度から明らかなように、人工衛星 によるリモートセンシングとの組み合わせを無視しては計画作成はできない。こ の点も含めて検討することが示唆される。

    3. 大学に所属する施設として、教育的視点は何か。

       明らかなことは、「魅力のある研究」を 行えば、大学院生を他大学からも 呼び込むことができる。さらに工夫を凝らす点として以下のようなものがある。

      • 野外及び室内実験の機会を与えられる研究施設となる。講師などスタッフは国 内外から広く求める。
      • 卒業論文や大学院の研究のために流氷研究施設に滞在することを容易にする。
      • 大学以外にも開かれた、一般社会人や小・中・高校生向けの講義や実験・観察 をする。「流氷子供シンポジウム」や放送大学などの発展・充実である。
    4. 社会への貢献として何が考えられるか。

       オホーツク海の流氷の消長を公表・予測することで、北海道の産業・社会 活動、災害防止に貢献でき、また観光産業にも貢献できる。特にオホーツク海沿 岸地域では、流氷の影響は極めて大きいので、地域住民、産業団体、自治体、学 術研究機関、道庁(支庁を含む)、国の機関が総合的・横断的に連携し、必要な 機能や役割を分担する、例えば「オホ−ツク海沿岸センター」を構築し、当研究 施設がその構想の中心となるのも魅力的である。
       海上保安庁水路部は、当研究施設に流氷海難防止、油汚染事故における情報提 供などを要請している。大学本来の任務ではないが、施設拡充の要求を提出する 場合に、社会からの要請を付記することも必要であろう。

B 第一管区海上保安本部水路部 齋喜 國雄 委員

当庁が係わると思われる項目について記述します。

  1. これまでの評価

    1. a. 創設の経緯

       当庁の流氷観測との係わり合いから当庁の流氷観測は昭和29年から始まり、 昭和45年3月の択捉島での集団流氷海難を契機に同年11月から流氷情報センター が開設され、海難防止を強化した。当庁へ流氷レーダ画像が提供されたのは、昭 和43年からで現在までの30年間にわたっている。
       これまで陸上からの目視、巡視船による氷縁観測による部分的な観測データか ら、沿岸海域の広範囲のレーダ画像が入手することにより、流氷海域の分布状況 が把握できるようになり、海難防止に当たる当庁にとっては貴重な情報源となっ ている。オホ−ツク海沿岸における海難は、漁船等が流氷に閉じ込められるなど が発生しているが、レ−ダ画像による状況把握により的確な救助作業が行われて きている。昭和43年に当管区に航空機が配属され、また、昭和53年から砕氷型巡 視船の配属により沖合海域の観測態勢が整い、沿岸域の北大流氷レーダ画像と合 わせて北海道周辺全体の流氷状況が把握できるようになった。
       これらの観測体制の充実により、巡視船による効率的な哨戒、漁船等に対する 適切な安全指導ができるようになったのは、北大流氷レーダ画像の功績は大きい。

  2. 将来の展望

    1. d. 社会への貢献

       北大流氷レーダ画像は、当本部の海氷速報に取り入れられ、海上保安部署 から漁協等の関係機関に通報するとともに、利用の拡大を図るために平成6年か らファックスサービスで、また、平成9年からはインターネットで一般にも提供 を開始した。平成10年の流氷シ−ズンではこれらのメデアで約26,000件の利用が あった。このことは海運・水産関係者といった海難防止の分野にとどまらず、観 光産業等を含めた多くの分野で活用され、社会への貢献が大である。

  3. 今後望むこと

    1. 流氷海難防止

       流氷勢力の状況を把握する事は流氷による航行阻害等の海難防止のために 必要な情報であり、今後とも生活に密着した北大レ−ダの存続を希望している。

    2. 将来のレ−ダ観測に望むこと

       海難や油汚染の事故等が発生した場合は、きめ細かなデ−タが必要となり、 流氷の気象、海象による漂流予測が可能となる情報が得られるような新しいレ− ダ観測を希望している。なお、現在衛星デ−タの利用も検討しているが、レ−ダ と同精度の衛星を比較しても、北大流氷レーダのようなリアルタイムで入手でき る状況ではない。

C 国立極地研究所 内藤 靖彦 委員

  1. これまでの評価

     流氷研究施設の創設、運営、成果、施設などについての過去の評価は、評 価基準が明確でないため厳密な評価は困難である。しかし、2、3 の問題に触れる 必要がある。先ず設置目的が、オホーツク海の総合研究を行なうとされているが、 少なくても総合研究が余りにも漠然として具体性に欠けているため、この点から も評価は非常に困難である。総合研究に対する、発足当時と現在の認識に大きな 違いはないと考えられるが、少なくとも過去においては総合ということとで何で もありということが混在しているように考えられる。実際現在のスタッフで総合 研究がどれだけ出来るかというと大いに問題を感じる。掲げられた目標と現実の 間にギャップがありすぎるといえる。これでは現場のスタッフが戸惑うばかりで ある。もしも予算が潤沢にあり、足りない戦力を外部から得られて共同研究を実 施できたとしても、オホーツク海の総合研究は容易ではない。多分この総合研究 は長い時間かけてこつこつとオホーツク海に関する研究をやりなさいというぐら いの目標に思われる。このような意味では流氷研究施設は、出来る範囲で目標達 成のため順調に活動をやってきたといえる。多分施設の発足当初からかなり最近 まで、このような状況が外部の研究者も含めた一般的認識であったと思われる。 最近になってやっと評価活動が行なわれるようになり、改めてこの問題が取り上 げられるというある意味ではハプニングが起こったわけである。従って、過去の ことを現在の判断基準で評価することは避ける必要がある。とはいえ、一つの組 織が存在し、活動を実際に行なってきたのであるから、それなりの成果が必要と 考える。この点からは、活動の報告が出されているのでそれなりの成果が得られ ていると考えられる。多分表に出てこない地域社会への貢献、来訪する研究者や その他の訪問者への対応など、出先の施設が避けられない目に見えない活動が多 くあったと思われる。これらの点も当然判断の対象にならなければならない。し かし、純粋学術的な側面だけから判断した場合でも、流氷研究施設プロパーの研 究成果は少ないように思われる。さらに付け加えるならば、研究者の判断により それなりの具体的研究目標を設定して焦点を絞った研究を実施したのであれば、 少なくともその部分は外部から分かりやすい結果として見えるのではないかと考 えられる。この点で一番残念なのはレーダによる研究成果が見えにくいことであ る。もちろん個人の研究者の自由な発想が科学の基本要素であることも理解した うえで、組織がどのように有機的に機能すべきか、特にレーダがそこにある以上、 それが活動の中心に位置する具体的研究計画が個人の研究計画と平行してあって も良かったのではないかと考える。結果論であまり意味がないが。

  2. 将来の展望

    1. 国際・国内研究者との共同研究を通じて、 施設を利用してもらう効果的な方法は何か。

       将来をどの位の時間として考えるかによって考える課題の意味が多少異な ると思えるが、時間軸を意識せずに一般論としてこの課題について述べたい。第 一には流氷研究施設を今後どのように位置づけるか大きな問題である。流氷研究 施設は組織としては非常に小さく、余程の社会的または学問的要請がないと大き くすることはほとんど不可能に近いと思われる。このことを前提条件にすると、 将来の展望として考えられることは、小回りの利く組織の利点、現場を持ってい ることの利点の二つと思われる。この利点を最大限に利用して、なおかつ足りな いところを共同研究で補うのが良いと思われる。このような条件では多分施設を 多くの人に利用してもらう発想より、ユニークさを追及する課題を設定した方が 効率的と考えられる。この場合は大きさを犠牲(施設利用者の数)にすることに なる。一般に共同研究ないしは共同利用は全くイコールの立場で進めることは難 しく、現場は共同利用される立場になりやすい。この辺から脱却するには、現場 でなければできない、そしてプログラムの面白さ(特に重要仮説を検証する型の プログラム)を全面に出した共同研究を企画する必要がある。共同研究そのもの も大きい必要はない。大きな予算を持たないかぎり、現場の観測を中心に据えた 研究はなかなか困難であるが、この点でも一歩一歩積み上げていく必要がある。 最初、予算は科学研究費補助金に頼ることが大事である。これを得ることはプロ グラムが公式に認められたこととなり、将来の発展の足がかりとなる。幸い科学 研究補助金は外国旅費も使えるので、ロシア、中国の研究者を招聘でき、大きな 戦力になると考えられる。これは現場を持っていることに加えて、別の意味での 地の利であるといえる。活動の中心をあくまでオホーツク海の現場として、そこ に小さくとも光る研究を芽生えさせることが現在一番必要とされていることでは ないだろうか。研究者の意識と眼が現場に向いていることが何より重要と思われ る。日本の研究者はとかくヨーロッパやアメリカの活動に眼が行きがちであるが、 彼らを呼ぶ必要もないし、こちらからも出ていく必要もない。このような現場に 眼を据えた研究を最低5年間は続け、核になる研究を育て、将来につなげる必要 がある。
       しかし、これでは施設利用者の数は増えない。施設を利用してもらうためには 別の研究計画が必要である。そのためには、とにかく現場の利に加えて現場の利 にさらに付加価値をつける必要がある。多分、それはいろいろの研究に役立つ基 礎データであろう。基礎データの蓄積が長期的になされるならば、組織自体に価 値を生むことになる。この意味ではモニタリング観測をたちあげる必要がある。 これを実行することは容易でないが、低温研究所や外部の施設利用者にも観測の 一部を担ってもらうことにより(リモセンは欠かせないのでこれも含めて)実施 すればこれも可能と考えられる。ただしこれも大きな計画でなく、実行可能な範 囲のものを考える。時間軸もまず5年間を第一期とし、その後見直しながら長期 に続けることが良いのではないか。
       さらに付け加えるなら、現場で使用できる船が期待されるが、船を自前で持つ ことは困難なので、地の利を生かして、地元の漁船を簡便に使える方法がないか 検討の必要がある。場合によってはロシアの観測船を使用することも可能ではな いか。

    2. 流氷レーダーの更新は必要か。特に現存のものから変更するならば、 何が研究推進に有効か。

       流氷レーダーの更新問題は流氷研究施設だけの問題ではなく、低温研究所 もしくは北海道大学全体の問題と考える。これは、今後オホーツク海およびその 周辺のリモートセンシングデータの収集という問題に直結し、この方面の研究戦 略において極めて重要な位置づけにあると考えるからである。地球環境問題にお いてこの地域の研究は非常に重要な位置づけにあり (石油開発を含めて)、早期 に研究体制を構築する必要があるが、幸い低温研はオホーツ海を中心にしたプロ グラムを準備した。低温研が準備した課題の共通問題としてリモートセンシング をどのように利用するかが焦点と思われる。また、モニタリング研究が必要と思 われるが、リモセンはそのための重要なデータソースとなる。もし、流氷研究施 設だけの流氷レーダとして継続する必要があるなら、その研究目的は明確なもの でなければならなく、多分規模も小さいものにならざるを得ないのではないだろ うか。低温研究所あげてのリモセンと位置づけして、さらに必要なら、個別研究 課題用のレーダを追加することも考えられる。
       この問題とは別に、海洋を中心課題とするなら、観測プラットホームの問題も ある。これの解決は当座の問題として取り組まなければならないが、将来問題と して十分検討する必要がある。

    3. 大学に所属する施設として、教育的視点は何か。

       教育は重要な問題であるが、専門教育(大学院生)を対象に考える必要が ある。学生は教官の研究への熱意を常に視野に入れていて、学生の姿勢にこれが 反映され、また学生はある程度数がいると、学生同士で啓発しあうことが多くあ る。現在の流氷研究施設でこの問題を一気に解決することは困難であり、この問 題も一歩一歩進めて行くべき課題である。これについても出発点は流氷研究施設 プロパーとして、そして共同研究として興味のある研究プログラムが組めるかど うかにかかっている。良い研究が進んでいるところには学生も集まる傾向があり、 そのためには良い研究計画をつくることが先決である (一番難しいことである が)。全てがここから始まり、この核が立ち上がれば、教育においても良い方向 が見えて来る。全てを同時に解決するのは困難である。

    4. 社会への貢献として何が考えられるか。

       社会への貢献は地域社会に研究成果を示すことが第一である。幸い周辺は 海洋の生産に生活基盤を有している人たちが多いので、海洋の研究は地域社会と 非常に近い関係にある。この方面へ研究成果を、直接的還元はないかも知れない が社会との接点を積極的に作り還元していく必要がある。これは多くの研究機関 が同様に求められていることである。この意味では紋別市が行っている国際シン ポジウムは地域社会への還元と言えるが、流氷研究施設がもっと見える形なると さらに良いのではないか。

D 気象庁札幌管区気象台長 古川 武彦 委員

  1. これまでの評価

    1. 創設の経緯

      ・外部評価の原資料を見る限りでは、当施設の創設目的である野外観測充実 のための観測基地という要請が、直後に志向された流氷レーダーの開発そのもの であったのか、他の事項に優先させたのか判然としない。当施設は流氷レーダー を軸に、特筆すべき成果を上げてきたことは疑問の余地はないが、流氷レーダー の開発や維持が、当時の低温研究所が意図した研究戦略、課題やプログラムなど と、その後、どのようにリンクして来たのか、また、これまでの推移や現在の姿 は、創設当初に関係者が展望した姿とどのような関係にあるか、整理する必要が あろう。
      ・(注)本a項についての小職のコメントは、創設の経緯や研究課題が流氷レー ダーを意識して、原資料中でもう少し具体的に記述や整理がなされれば、削除し てもらって結構です。

    2. 組織と運営

      ・当施設のスタッフの推移を見ると、過去30年間1名程度と極めて少なく、異 動もほとんど見られない。維持費や研究予算も少額に推移しているように見受け られる。立地環境も、北大をはじめとした都市部から遠隔地にあり、外部評価の 原資料でも、研究コミュニィーからの孤立や刺激不足が指摘されている。しかし ながら、このような環境下にもかかわらず、流氷レーダの開発、維持・運営の他、 当施設のスタッフ自身で、また種々の国際・国内の共同研究者や訪問研究者によ り、膨大で広範囲な成果が報告されていることは、評価される。一方、創設当初 から、あるいは結果として、30年間にわたり当施設に十分な資源が割かれずに経 過したことは、当施設自身の存立が孤立的で、研究上の戦略などが曖昧なままに、 あるいは放任的に推移したのではないかとの疑念を抱かせる。これまでの運営形 態についての知識に乏しいが、今後は、原資料で提起されている研究分野の推進 に相応しい組織の構築と運営形態が望まれる。

    3. 研究成果

      ・当施設は、上述の種々の制約条件にも拘わらず、流氷レーダの開発を中心 として、多岐にわたる研究分野で成果を上げていることは評価される。
      ・これまでの30年間にわたる流氷データの定常的な取得、蓄積・整理、公表は、 地球温暖化の解明のための基礎的データの一翼をなすものとして、評価される。
      ・流氷研究施設は、過去30年間にわたり流氷レーダーの情報を積極的に部外に公 表・提供し、国の機関が行っている流氷の監視や予測サービスの支援を行って来 ている。また、近年は、北海道大学のホームページでも公開され、広く利用され ている。
      ・現在、流氷レーダーの情報は、気象衛星による情報などとともに、国が行う流 氷監視サービスにおける根幹的情報の役割を担っており、これらのサービスを通 じて地域に広く還元され、航行の安全確保、防災活動、地域の振興に大きな貢献 を続けている。流氷レーダーのこうした実績は、当施設が大学の社会への貢献の 必要性を早くから洞察し、先取りし、実践してきたものとして、高く評価、特筆 される。
      ・これまで10数年にわたり、国際および国内研究者を対象とした流氷シンポジュー ムなどを開催していることは、高く評価される。
      ・研究成果は、大量・多岐にわたっているが、当施設の資源上の制約条件から、 総花的な面が否めず、また、ブレークスルー的成果に乏しい。

    4. 施設・設備

      ・世界に先駆けて、流氷レーダーを手がけ、流氷の消長をリアルタイムで監 視するアルゴリズムを開発し、実用化した功績は、特筆される。

  2. 将来の展望

    1. 国際・国内研究者との共同研究を通じて、 施設を利用してもらう効果的な方法は何か。

      ・今後は、流氷研究施設が立地している海氷・流氷に関わる地理的環境を最 大限に生かした研究テーマの絞り込みと、国際的にも第1級の施設、資源の整備 を図る必要がある。こうした絞り込みと施設の特色が、結果として国際的規模で の研究の分担化や研究者の交流につながると考えられる。

    2. 流氷レーダーの更新は必要か。特に現存のものから変更するならば、 何が研究推進に有効か。

      ・流氷の消長監視の重要性は、益々高まっており、その継続が望まれる。し かしながら、流氷レーダーによる定常的な運営と観測、情報提供などは、学術的 な利用もさることながら、維持のために相当の予算を要する。定常的な情報提供 は、社会の側からの要望であるとしても、大学の本務には馴染みにくい。レーダー の更新に当たっては、気象衛星「ひまわり」や他の軌道衛星等との有機的な分担 の可能性のほか、新しいセンシング技術の導入、さらに、レーダー情報の部外提 供分野については、以下のd項で述べるように、他機関の協力なども模索すべき ではないか。

    3. 大学に所属する施設として、教育的視点は何か。

      ・当施設は、まさに流氷の襲来地域に立地していることから、流氷およびそ れに付随した諸現象をin-situで観察することが出来る。当施設を利用した自然 に触れる機会や実地踏査などが、理科系文化系を問わず学生の必須カリキュラム に組み込まれれば、現象に対するに人間の感性の啓発や自然に対する畏敬心の醸 成など、学生にとっての教育的効果は非常に大きいと考えられる。
      ・こうした実体験の場が、ひとり大学人のみならず、広く一般に対しても(合理 的な対価や手続きの下に)提供されれば、当施設に対する有形無形の支援や、一 般人に対する教育や啓蒙への寄与も大きい。

    4. 社会への貢献として何が考えられるか。

      ・オホーツク海の流氷の消長は、今後も北海道全体、ひいては日本の自然や 産業・社会活動、災害形態などに大きな影響を与える。特にオホーツク海沿岸地 域では、その影響は極めて大きく、一種の流氷文化圏を形成する。今後、こうし た圏域の活性化を図るため、地域住民、産業団体、自治体、学術研究機関、道庁 (支庁を含む)、国の機関が、総合的・横断的に連携し、必要な機能や役割を分 担する、例えば「オホ−ツク海沿岸センター」が構築出来ないだろうか。そのセ ンターは、実質的に地域に、国際的に開かれた文化活動の拠点となるべきである。 当施設はその中での学術的核となるべきであり、こうした構想に向けてイニシア チブをとるべきではないか。

E 東京大学大学院総合文化研究科 高橋 正征 委員

  1. これまでの評価

    1. 創設の経緯

       1941年に北海道大学低温科学研究所が北海道大学構内に新設され、同研究 所の海洋学部門を中心とした海氷の物理学的性質の研究や北海道オホーツク海沿 岸域での野外実験観測の必要から、野外観測実験の充実を目指した現地観測基地 の必要性が高まり研究所の付属として流氷研究施設が1965年に紋別市に設置され た。施設開設と同時に、流氷観測を主目的とした世界初のレーダー設備が着工さ れ、1968年に紋別・網走・枝幸の3レーダー網システムが完成した。流氷の観測 と実験を中心とした野外実験のできる、国内唯一の施設という点で創設の目的は 高く評価できる。その後、海氷を対象とした、化学や生物などをも含む幅広い実 験基地としての機能を果たしてきたことも評価される。

    2. 組織と運営

       設立当初は助手1名、技官1名、事務官1名で、低温科学研究所海洋部門教授 が施設長を兼務した。レーダーシステム完成後は技官数が2名増加し、合計3名に なった。1975年から講師・助教授ポストが増え、教官数が合計2名に、1983年か らは講師・助教授ポストは教授ポストに代わり、同時に施設長を兼務することに なった。1997年には助手ポストが助教授ポストに代わり、教授と助教授が各1人 の体制になった。1995年の低温科学研究所の全国共同利用研究所への改組に伴い、 流氷研究施設も全国共同利用研究施設としての役割を担うことになった。教官数 の増加、及び教授・助教授へのアップシフトにより、研究施設としての研究内容 の高度化、並びにより幅広い学問分野への対応が可能になってきたように感じる。 設立当初の実験施設としてだけでなく、独立の研究機関としての性格を強く持つ ようになってきた。流氷研究施設創立20周年を記念して始まった海氷圏国際シン ポジウムは、紋別市主催として続いており14回の歴史を刻んだ。海氷を対象とし た国内で唯一、国際的にも定期的に行われていて、しかも市が主催する例は珍し い。流氷研究施設のスタッフは、シンポジウムの企画と運営の中心になって働い ている。学界への貢献だけでなく、地域と一体となった学問の一つのあり方を社 会に呈示した点でも評価される。

    3. 研究成果

       施設設立初期には、レーダーによる流氷の挙動の観測と海氷の物理的な特 性や生成機構に関する観察や実験の業績が中心であった。その後、サロマ湖やオ ホーツク海での海氷とそれに関係した現象の研究基地として国立極地研究所を始 めとして、日本各地の研究者が施設を利用して観測や実験を行うようになり、海 洋物理だけでなく、生物、化学、気象、工学等広範囲の研究者に利用され、それ ぞれに成果を上げている。全国共同利用が始まってからはさらに利用研究者の層 が広がっており、それらの具体的な成果が出始めている。
       生物が関係した分野では、1991〜93年に海氷圏生態系の維持機構を総合的に研 究する日加国際共同研究が、流氷研をコアー研究施設とし、サロマ湖と北極圏の レゾリュートをフィールドとして行われ、1993〜97年に合計27篇の原著論文が発 表された。それまでは、海氷に付着するアイス・アルジーに研究の注目が集まっ たが、日加共同研究に海氷圏生態系というより大きな視点での研究アプローチが 定着してきた。海氷生態系の把握だけでなく、海氷の存在による生物圏や地球環 境に対する影響の評価などへも研究が発展した。流氷研をコアー研究施設として 作られた日加共同の研究チームは、1998年からはノース・ウオーターポリニア国 際プロジェクトに参加してユニークな研究を展開している。同時に、サロマ湖と オホーツク海をフィールドとして海氷生態系の維持機構の研究が、1997〜2000年 の4年計画で流氷研をコアー研究施設として実施されている。生物とそれに関連 した物理・化学分野では、流氷研究施設とスタッフ並びに国内の研究チームが、 海氷を研究対象とした日本の研究機関並びに研究グループとして世界の関連研究 者から認知されている。

    4. 施設・設備

       生物分野の研究にとって、レーダーは人工衛星による観測データのない時 代の流氷の状況を知る意味で貴重である。近い将来、ヘリコプター・飛行船・耐 氷船・砕氷船などのプラットフォームを利用してオホーツク海の流氷上で数時間 から数日間の実験・観測を行う計画があり、その場合には流氷の位置や動きをリ アルタイムで捕捉していくことが必須で、現状ではレーダーとその情報に依存す る部分が大きい。
       海氷が手近に得られる所に実験施設があることが、生物分野の研究では不可欠 であり、流氷研究施設の低温・冷凍実験室、ならびに各種の実験・観測機材や、 移動・運搬のための車両は、研究の遂行上極めて貢献するところが大きい。
       また、研究設備の維持・管理、研究者への専門的対応等が不可欠で、それには 常駐の研究者と技官の支援が必須で、そうした要求に十分に応えてきた。さらに、 流氷研究施設のスタッフは自分達の研究はもとより、国内外の研究者を流氷研究 施設に呼び込むと同時に、自分達も国外に積極的に出て研究を進めて相互研究交 流により成果を上げてきたことは大いに評価される。

  2. 将来の展望

    1. 国際・国内研究者との共同研究を通じて、 施設を利用してもらう効果的な方法は何か。

       フィールド研究を必要とする研究の多くは、フィールドの近くに研究施設 のあることが不可欠で、海氷を対象とした生物・化学・物理研究の多くがまさに これに該当する。これまで、南極観測の様々な予備試験研究の場として流氷研究 施設と隣接のフィールドが利用されてきた。今後は、南極だけでなく、北極を含 めて、予備試験・研究や、現象を絞った観測や研究のフィールドとしてオホーツ ク海域が利用されていくことは間違いなく、その際の基地あるいは実験研究場所 として流氷研究施設の存在は極めて大きいと考えられる。
       流氷研究施設・低温科学研究所や国内各研究機関の研究者が、単独あるいは共 同で海氷を対象としたフィールド研究を行う場合に、流氷研究施設は不可欠であ る。国際共同研究の国内でのフィールドに隣接した研究施設として、流氷研究施 設は唯一であり、その意味でも存在意義は大きい。過去・現在と国際共同研究が 精力的に行われたが、今後は今よりもさらに活発に行うように、工夫することが 望まれる。それには、対象とする現象を絞ったシャープな共同研究を目指し、得 られた結果をシンポジウムやワークショップで十分に議論した上で、成果をよく 纏まった出版物にして発表することにより、国内外の研究者の関心と評価を高め、 次の研究をより意欲的に進める基にする。紋別市で毎年開かれている海氷圏シン ポジウムを成果発表の場として今以上に有効に利用することも効果的だと思う。
       現在の教官スタッフの専門は物理分野であるが、生物や化学への関心や知識も 深く、利用者にとって心強い限りである。将来的には、PDF等の研究者も常駐し て研究するような体制作りができると施設の利用が今以上に充実すると思う。
       流氷研究施設はオホーツク海に面しており、オホーツク海の日本サイドの研究 拠点としての意味も大きい。特に、低温科学研究所は「オホーツク海と周辺陸域 における大気・海洋・雪氷圏相互作用」のCOE研究プロジェクトを進めていて、 研究の現地拠点とすることにより、COE研究プロジェクトの一層の充実が期待さ れる。オホーツク海は、これまで東西の冷戦構造の下で資源利用が押さえられて きたが、冷戦状態が消滅した現在、急速に資源利用の手が伸びることは避けられ ない。冷戦時代はオホーツク海は研究の手もほとんど入っていず、資源の上手な 利用のためには可及的速やかにオホーツク海の状況の把握が必要である。そのた めには冬季だけでなく周年にわたる科学研究が必要である。

    2. 流氷レーダーの更新は必要か。特に現存のものから変更するならば、 何が研究推進に有効か。

       専門外のために分からない。ただし、近い将来、オホーツク海の流氷に接 近したり、上に乗って観測や実験を行う計画があり、その場合の流氷の動きをリ アルタイムで追跡するためにはレーダーの利用が恐らく最も現実的だと思う。

    3. 大学に所属する施設として、教育的視点は何か。

       我が国唯一の海氷を観測・実験できる研究施設として、全国の学部及び大 学院学生を対象とした野外及び室内実験の機会をもてるようにできると良いと思 う。学部対象の公開臨海・臨湖実習が大学付属の臨海・臨湖実験所で行われてい て、こうした経験によって将来は教育や研究の場で活躍したい希望者が出ている ので、同様の企画を流氷研究施設としても検討することを勧める。講師はスタッ フを含め、国内外から広く求めることも長く続けるには重要だと思う。
       卒業論文や大学院の研究のために流氷研究施設に滞在して研究し、ある程度の 専門教育が受けられるような体制作り(例えば、施設のスタッフ及び外部の研究 者が流氷研究施設で講義や実験指導に当たられるような)があると良いと思う。 既に国内外の大学院生がサロマ湖やオホーツク海をフィールドとした研究を始め ているので、今後のさらなる充実である。
       社会学習の充実がいわれており、一般社会人や小・中・高校生向けの講義や実 験・観察のできるチャンスがあることも重要である。この場合は紋別市内にある 流氷科学館を始め、周辺の関連施設との今以上の連携が必要である。流氷研究施 設のスタッフによる「流氷子供シンポジウム」や放送大学の利用など、具体的な 試みが進められているので、これらも今後の発展・充実が望まれる。 研究のた めには全国共同利用をさらに一歩進めて、国立極地研究所・海洋科学技術センター など、国内の関連分野の研究を進めている機関のフィールド施設としての機能を 強化することにより、さらに研究や教育が充実すると思う。流氷を直接に採取し たり、流氷上で実験する計画があり、それには耐氷船・砕氷船・ヘリコプター等 のプラットフォームが必要である。これには国を挙げての取り組みが求められる。

    4. 社会への貢献として何が考えられるか。

       流氷研究施設は、既に地域の文化的な牽引力としての役割を果たしている。 例えば、流氷研究施設のある紋別市は、流氷の町として知られており、そこに流 氷を科学的に研究する施設のあることに意味がある。流氷研究施設のスタッフが 協力して、市が主催する海氷圏国際シンポジウムも14回を数え、毎年数百人の 研究者が国内外から紋別を訪れている。これは、単に紋別にとどまらず、日本に とっても意義がある。今後、国際シンポジウム、流氷研究施設がそれぞれに今以 上に活動が活発になり、その存在が内外に知れてくると、研究に、勉強に、観光 にと目的意識のはっきりとした人達の訪れが期待される。こうした地域の特性を 生かして活性化していくことは、地域はもとよりのこと日本にとって大変に良い ことである。

F 東京大学海洋研究所 平 啓介 委員

  1. これまでの評価

    1. b. 組織と運営

       科学を地域に普及する上での貢献は大きく、流氷の訪れを全国的に知らせ る点も大きな意義がある。紋別における国際シンポジウムへの貢献も大きいが、 最近の宇宙からの観測技術の導入を考えると少ない職員が大学本部から離れて研 究することは制約が大きいように思われる。

    2. c. 研究成果

       海氷レーダー観測の成果も大きいが、海氷下の海況観測に基づく総合研究 を高く評価する。東京大学海洋研究所も岩手県に臨海研究センターを持っている が、採集生物の生物学的研究に比べると地球物理観測は海水交換過程など当初の 海況研究の後はルーチン的な研究に陥りがちであることを反省している。研究船 による外洋からのアプローチを試みているが、臨海研究センターの役割が従になっ てしまう。

    3. d. 施設・設備

       レーダー観測施設の老朽化・陳腐化が懸念されるが、現在の財政状況は楽 観を許さないであろう。可視・マイクロ波センサーによる人工衛星データの活用 と広域海洋の研究展開が望まれる。

  2. 将来の展望

    1. 国際・国内研究者との共同研究を通じて、 施設を利用してもらう効果的な方法は何か。

       1999年2月にウラジオストック(ロシア)を訪問した。ロシア、日本、ヨー ロッパの科学衛星による北洋の海氷の研究が実施されていた。衛星観測とレーダー 観測を総合した特徴を活かした研究が国際共同研究の課題の候補であろう。低温 研の全国共同利用としての活用をはかることも重要である。

    2. 流氷レーダーの更新は必要か。特に現存のものから変更するならば、 何が研究推進に有効か。

       流氷の移動観測には航海用や港湾監視用の汎用レーダーが利用できれば費 用は少ないように思う。

    3. 大学に所属する施設として、教育的視点は何か。

       附置研としての教育は大学院生が主体になるが、遠隔地にあることは制約 が大きい。データを札幌に全て伝送して、現地は保守作業に徹することも考えら れる。そうなると大学院生の教育には有利であろう。

    4. 社会への貢献として何が考えられるか。

       春を告げる施設としての役割は大きいが、地球温暖化などグローバルな課 題への取り組みは現状の沿岸監視だけでは不十分である。

G 北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻 前 晋爾 委員

  1. これまでの評価

    1. 創設の経緯

       昭和30年代という早い時期に、オホーツク海の流氷に着目し、研究・観 測拠点として紋別に低温科学研究所流氷研究施設を設置したことは、高く評価さ れてよい。人工衛星は勿論の事、航空機や船舶等の広域にわたる観測手段が困難 であった時代に、レーダ観測に焦点を絞ったことは、やむを得ない事情があった としても、卓見であり高い評価に値することであると考える。
       さらに、オホーツク沿岸の主産業が漁業である以上、地場産業発展のため流氷 情報サービスに、ある程度のエネルギーを注いだことも、うなずけることである。 当然、漁業者からも相応の海洋および気象情報や、場合によっては貴重な観測の 支援を受けることが、充分考えられることであるかである。
       以上の様な事実を勘案すると、低温科学研究所流氷研究施設の設置については、 当時の関係者の着眼点と、設置に至るまでの努力には敬服する以外にない。

    2. 組織と運営

       組織として、設置以来ほぼ一部門以下の人員構成(技官は多いとしても) で、設備の維持、観測の継続、情報の提供かつ共同研究を行ってきたことは、高 く評価すべきことと考える。
       しかし一方、観測が主としてレーダ観測に力点が置かれていた事は、いささか 残念である。なぜならば、オホーツク海の海洋資源と流氷の関係は明らかである し、オホーツク海が日本を含む北東アジアの気象気候環境に及ぼす効果もまた重 要と考えられるからである。したがって、ある時期に研究・観測の検討をおこな い、組織の発展的拡充を図る必要があったのではないかと考える。

    3. 研究成果

       流氷観測を長年にわたって継続し、研究成果を出し続けたことは、流氷研 究にとって貴重なことであったと考える。環境変動・気候変動の重要な鍵となる 流氷の観測の長期継続は、今後の環境気候変動予測にとっても、大きな成果であ ろう。

    4. 施設・設備

       施設は、低温科学研究所の努力により、立派なものとなっている。設備に ついては、沿岸部の流氷の観測としては立派なものと言える。しかし、b 組織と 運営で記述したように、北東アジアの気象気候環境に及ぼすオホーツク海(勿論、 流氷も含め)の効果は、極めて重要である。したがって、低温科学研究所以外の 北海道大学あるいは全国の大学あるいは研究機関で、北東アジアの自然環境とオ ホーツク海の相互作用を高度にかつ多角的に研究する事が出来ない以上、低温科 学研究所流氷研究施設の存在は、グローバルな環境研究という観点からも、欠く ことが出来ないと思う。すなわち、沿岸部流氷域のレーダ観測にとどまらず、オ ホーツク海全域および周辺陸域の雪氷、海洋、生物の研究観測に発展させてきて 欲しかったと感ずる。

  2. 将来の展望

     上で記してきたように、日本は勿論北東アジアの自然や人間の営みにとっ て、オホーツク海は、極めて重要である。そのオホーツク海の特徴である流氷の 観測の重要性は言をまたない。したがって、流氷観測の有力な手段である流氷レー ダは、より観測対象を明確化し、かつ高度な技術を取り入れつつ存続を計るべき と考える。と同時に、オホーツク海観測の視点を広げ、研究・観測の多様化を計 る必要があろう。
     大学院教育は勿論のこと学部教育においても、多様な研究を展開している流氷 研究施設は重要な教育拠点となりうる。総合的な自然観測(観測手段も含め)の 研究教育の拠点としては、北海道大学でただ一つであろうと思う。
     流氷研究施設の研究観測の多様化を計れば、国際・国内の研究者との共同研究 は、自ずと展開していくものと考える。研究者および研究機関の間でのネットワー クも形成されていくと思う。しかし、研究・観測の多様化には、研究人員(国外 からのパーマネントの研究者も含む)の大幅な増大と研究費の増加が必要である。 と同時に、低温科学研究所教官の方々の研究視点と行動をより一層拡大していた だくことも肝要である。そのうえにたって、低温科学研究所全体を考えた上での 流氷研究施設の発展的改革を是非お願いしたい。

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