北海道大学低温科学研究所付属
流氷研究施設外部点検評価報告

平成11年3月

海氷研究の重要性

3. オホーツク海・北海道沿岸での観測

氷縁海観測の重要性

 氷縁海は、地球の冷源と熱源の境目であり、海洋と大気の循環(地球規模 の動き)、気候変動を予測する上で重要な位置を占める。オホーツク海は海氷南 限、典型的な氷縁海であり、気候変動予測研究にとっても重要な海域といえる。

結氷期のオホーツク海の海洋観測体制

 極域の観測は、これまでにも氷島基地、砕氷船などを活用してかなり充実 して行われてきた。これに対して海氷が薄く流動的な氷縁海での連続的観測は非 常に困難であり、かつ、危険を伴う。

 典型的氷縁海に接する位置にありながら、我が国による氷期の観測はほと んどが沿岸域に限られている。沖合に関しては、年1回、海上保安庁の砕氷船 「そうや」による観測航海が行われてだけである。このため氷縁海に関する知識 は未だ充分とは言えない。冬季の海洋観測の充実が必要である。

地球温暖化のバロメーター

 オホーツク海は海氷南限の海、なかでもこの海の最南端の北海道沿岸は辛 うじて凍る海である。暖冬の年には海氷は皆無となり、厳冬の年には見渡す限り の氷野となる。この顕著な海氷勢力の変化は、気候変動の敏感な指標となる。海 水のもつ大きな熱容量を考えると、地球温暖化の安定したバロメーターでもある。

 先にも述べたように、当施設の研究によると、この100年間に沿岸域の温暖 化、海氷勢力の減少が認められる。沿岸の限られた範囲の現象とオホーツク海全 域の関連性についての観測・研究が必要な課題として残されている。

4. オホーツク海・北海道沿岸における観測・研究の現状

氷上で現場観測

 海氷の消長は、気象、海象、海洋生物などに影響を与える。流氷研究施設 を基地としてさまざまの現場観測が行われている。研究者は国公立大、私大、国 公立および民間企業の研究機関からなっている。ここではこの沿岸で行われてい る各分野の研究テーマ、現状について述べる。

氷上での気象学的観測

 海氷の生成、成長、融解は、海洋が受ける太陽エネルギーの反射率、吸収 率を変化させ、大気・海洋間の熱交換機構を急変させる。すなわち、大気と海洋 の間の熱、物質 (水蒸気、塩)、運動量 (応力の授受) の交換に影響を与える。 海氷勢力の変化は、まず、沿岸域の気象に影響し、さらには、気候変動につなが る。

 また、氷野の凹凸度は海氷が風から受ける力を変える。広域的には、海氷 の漂流、オホーツク海全域の海氷分布に関係する。

 沿岸域の氷上では、これらの物理過程の現場観測によって、その機構究明 を進めている。

衛星情報のためのパラメーター決定と検証

 最近のリモートセンシングの進歩は著しい。それは氷海研究にも大きな力 を発揮するであろう。しかし現段階では、解決されなければならない問題が残さ れている。現に、マイクロ波レーダー搭載の衛星ニンバス7 (NASA) による世界 の海氷分布図でも、オホーツク海には最大氷域の15%が夏にも存在すると誤認し ている。結氷初期の海域や薄氷域の認識、氷厚の決定もまだほど遠い段階である。

 衛星情報の詳しい解釈には種々のパラメーターの決定、アルゴリズム(関 数式)の作成が必要である。このためには、氷野現場での海氷の物理的性質の観 測が不可欠である。さらに得られる情報の検証にも、当然ながら氷上での現場観 測によって行われねばならない。ここに氷上での観測・実験の重要性がある。

 現在、衛星情報解釈のための基礎的データーを得るために、氷状が安定し ているサロマ湖において氷厚、積雪量、凹凸度、海氷の電気的性質などの観測が 続けられている。これらの観測は、主に、宇宙開発事業団、リモートセンシング センター、通信総合研究所、北見工大によって行われている。

 薄氷域であるオホーツク海沿岸はその検証の場として格好な場である。

結氷海域の海洋学的観測

 海氷の生成、成長、融解は海洋の水塊構造の形成に強い関わりをもつ。海 水の冷却、ブラインの排出は、先に述べた中冷水をつくり出す。これは広域的海 洋観測によって確かめられている事実である。しかしその詳細な定量的発達機構 の解明には氷下の基礎的現場観測が必要である。今年度からは低温科学研究所を 中心とするオホーツク海全域の海洋観測がようやく始められた。これと連動して 沿岸域の観測の充実が求められる。

海氷域の海洋生物環境

 海氷域およびその周辺海域は低緯度の海よりも生産性に富んでいる。すな わち、基礎生産者である珪藻類を主とする植物プランクトが豊富な海である。植 物プランクトンの繁茂には、充分な栄養塩と太陽光、海水中の炭酸ガスが不可欠 である。

 結氷海域では寒気、海氷の生成によって海水の鉛直混合が促進され、海底 付近に堆積した栄養塩が再浮上を促進する。光合成に必要な量の光量は海氷の底 面にも達していること、到達容存ガスも充分であること、さらに、海氷下面は植 物プランクトンが付着しやすいことなど、植物プランクトン繁殖の好条件が備わっ ていると考えられている。したがって、これを餌とするアミ、エビなどの動物プ ランクトンも多くなり、魚、貝類、カニの漁場がつくりだされる。

 近年、ようやく、海氷中、海氷下の栄養塩、光環境、植物、動物プランク トンの観測が本格的に行われ始めた段階である。

 しかし、海氷期の外海の物理的環境と海洋生物環境の関係についての観測 は、未だ皆無である。 

オホーツク海沿岸の水産学的研究

 この沿岸は ホタテ、エビ、カニ、スケトウタラの好漁場である。地域の 臨海研究施設として、海氷勢力と水産資源の研究が強く望まれている。

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