北海道大学低温科学研究所付属
流氷研究施設外部点検評価報告

平成11年3月

海氷研究の重要性

2. オホーツク海の特性と研究課題

 1. では海氷研究の全般的な重要性を述べた。ここでは、オホーツク海の特 性、課題などについて述べる。

(1) オホーツク海の特徴

海氷2 海氷3

オホーツク海は海氷南限の海

 北半球の海氷の限界線を追ってみよう。オホーツク海は世界で最も低緯度 の凍る海、すなわち、海氷南限の海であることがわかる。

アムール川

 オホーツク海を海氷南限の海としているのは何であろうか。それはロシア 極東の大河アムール川である。アムール川はシベリア大陸に降り積もった雪融け 水、モンスーン期の大量の雨水をオホーツク海に流し込む。この真水はオホーツ ク海の表面に広がって上下で塩分濃度が著しく異なる二重構造の海をつくり出す。

 海は 秋以降対流を起こしながら深くまで冷えていき対流層全体が海水の結 氷温度である-1.8度になってからようやく凍り始める。海は深いほど凍りにく いことになる。ところが、オホーツク海の対流は、アムール川の河川水がつくり 出す、表層5、60mの低塩分層に限られる。オホーツク海は凍るとう点からは浅い 海なのである。ほぼ同緯度の日本海、太平洋では、対流層が深く凍る前に春がき てしまう。アムール川の流量はオホーツク海の結氷と深く関わっている。

課題

(2) オホーツク海の水塊構造

 オホーツク海では、冬の寒気による水塊の鉛直混合、海氷生成に伴うブラ インの排出、海氷の融解によって独特の水塊構造が形成される。とくにオホーツ ク海北西海域ポリニアでは新生氷の生成が繰り返され、効率よく中冷水をつくり 出す。この水塊は北太平洋の海洋構造にも大きな影響をおよぼすと考えられてい る。

 なお、上記のポリニア形成にはオホーツク海の海底地形と潮汐運動が関わっ ていることが明らかにされている。

氷河期の姿を残す海、オホーツク海

 オホーツク海では冬季に冷水が沈降する。夏には、わずか水深50mで表層と の温度差が10度にも達する極端な中冷水が形成される。この水塊は、大気中の炭 酸ガスを効果的に吸収して、それを有機炭素、チッソに変えて海底に蓄積する働 きをする。ウッズホール海洋研究所の本庄教授は、オホーツク海の過冷却中冷水 が大気中の大量の炭酸ガスを除去していると、この海の重要性を唱えている。

課題

北太平洋の水塊構造と海氷

 オホーツク海の海氷が親潮を涵養するといわれてきた。オホーツク海およ び隣接する北太平洋の水塊形成、水循環については、近年、ようやく本格的観測 が開始された段階である。

課題

(3) オホーツク海の海流

 オホーツク海には反時計回りの環流があるといわれている。これは主に、 海明けから晩秋までの非結氷期の実測流、漂流物からの推定、水温と塩分分布か ら間接的に推算される地衡流計算に基づくものである。観測の困難な海氷期の流 れについては不明な点が多く残されている。

 オホーツク海の海流は、海氷の漂流、冬季の水塊の流動、植物、動物プラ ンクトンの動向などさまざまな問題に関連する。今後さらに詳しい観測が必要な 海域である。

課題

(4) オホーツク海の海氷と北日本の気象

海氷勢力と日本の気象

 オホーツク海の海氷研究の きっかけとなったものは、昭和初期の東北地方 の冷害の研究であった。とくに、夏のオホーツク海高気圧の発達は北日本の気候 に大きな影響をおよぼしている。これまでにもさまざまな気象学的研究がなされ ているが不明な点も多い。その充実度は気象庁による長期予報に表れている。東 北地方の山背(夏、東北地方に吹く冷たい北東風)とオホーツク海の、海氷、海 況の関係についても現在なお研究が進められている段階である。

海氷勢力の減少と気候変化

 近年、海氷勢力の減少傾向が顕著である。当施設の研究結果によると、こ の百年間に、沿岸域の平均気温は0.5度温暖化し、海氷勢力は60%減少している。 これが地球規模の温暖化に対応するものか否かはまだ断定できない。しかし、こ の現象は、人類の無制限な生産活動に対する警告といえよう。

 オホーツク海の海氷がつくりだす寒冷な気団と日本の気候は深い関係をも つと考えられる。オホーツク海中央部での気象、海洋両面の観測の充実が求めら れている。

海氷勢力

課題

(5) オホーツク海の海氷勢力と海洋の生産性

 先にも述べてように、世界の好漁場は氷海ないしは氷縁海周辺にある。オ ホーツク海、ベーリング海、三陸沖がその好例である。好漁場の基礎的条件は充 分な栄養塩と光合成を行うための太陽エネルギーの供給である。これによって海 洋の基礎生産力を決める植物プランクトンの繁殖が促進され、これを餌とする動 物プランクトン、小魚、底性動物、貝類、大型の回遊魚、海獣、鳥類という食物 連鎖が形成される。

 アムール川はシベリアの大森林から供給される大量の栄養塩をオホーツク 海に運ぶ。また、海氷の生成による鉛直混合は海底に沈降、蓄積されている栄養 塩を浮上させ、栄養塩のリサイクルを促進する。オホーツク海は植物プランクト ンの餌に富む海である。

 海氷は太陽光線の反射体、吸収体である。これは植物プランクトンの光合 成に不可欠な太陽エネルギーの供給を遮り、繁殖を阻止し海洋の基礎生産を阻害 する方向に作用する。ところが海氷下には光合成の反応には充分な太陽エネルギー が到達していることが観測によって明らかにされている。さらに、海氷の底面は 植物プランクトンの付着体となり、ブライン内部も植物プランクトンの生息場と なる。オホーツク海は高い基礎生産力は海氷に依存するといえよう。

 最近 ようやく海氷の内部や底面の植物プランクトンの生産量、栄養塩など の観測が行われるようになった。本格的研究はこれからといえよう。

課題

(6) オホーツク海の経済活動と工学的研究

 オホーツク海は自然環境上の重要性と同時に水産資源、海底の石油資源な ど経済面の重要性をもっている。

氷工学的研究

 結氷する海域は、温暖な海にはない独特の問題を抱えている。防波堤や、 桟橋など海中構造物などの設計においては、海氷のもつ破壊力、それに対する安 全性を考慮しなければならない。砕氷船の設計についても同じである。ロシアと の貿易は北海道の経済的重要課題である。結氷する港湾設備の整備、船舶の航行 の安全など工学的研究もこの海の課題である。

 現在、この沿岸海域では海氷の強度や構造物が受ける氷力などの研究が続 けられているが、今後はさらにこの面の研究、開発が求められるであろう。

石油掘削にともなう海洋汚染問題

 近年、オホーツク海サハリン沿岸には世界的規模の石油、天然ガスが埋蔵 されていることが確認され、採掘開始を間近にひかえている。この海域では、海 氷の重なり合いで水面上30mにも達する巨大氷塊(スタムーハ)が発生する。こ の氷塊は油田域の海底を削りながら移動する。問題は、スタムーハの移動による 海底原油パイプ・ラインの破壊である。

 結氷しない海域での流出原油の回収はオイル・フェンスを使って行われる。 しかし氷海で原油流出事故が発生した場合の対策は極めて困難である。原油が氷 野の下面にへばりつきながら、あるいは、砕氷と混ざり合いながら、海氷と一緒 に漂流した場合の対策はなされていない。

 当施設によるアルゴス・ブイ観測によると、サハリン東岸の海氷は北海道 沿岸に接近する。さらに融解水は、千島列島を通って太平洋に流出、えりも岬沖 から白老に達した。流出事故が発生した場合には北海道の沿岸の半分以上が被害 を受ける恐れがある。油流出時の対策は国家的な対策が必要である。

今後の課題

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