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クロロフィルbの合成が引き金をひく、CAOタンパク質の分解

(CAOタンパク質のある特定のドメインが、クロロフィルbの存在下でCAOタンパク質分解を誘導することが明らかになった。)

植物はクロロフィルaとbという二つの光合成色素を用いて、様々な光条件下で効率よく光合成を行う。クロロフィルaとbは異なる波長の光を吸収している。このため、植物は、より広い波長の光を吸収して光合成をすることができる。もし、植物がクロロフィルbを失うと、光エネルギーを集める効率が悪くなり生存に不利となる。そのクロロフィルbは、クロロフィリドaオキシゲナーゼ(CAO)という酵素によってクロロフィルaから合成される。

私たちは、クロロフィルbを合成する酵素の遺伝子を発見し、クロロフィルb合成の研究を進めてきたが、その中で、不思議な現象にぶつかった。それは、植物の中で、クロロフィルb合成酵素のタンパク質を全く検出できない、ということである。クロロフィルbは合成されているのに、それを合成する酵素が検出されないのはなぜなのだろうか?

その答えは、遺伝子組み換え植物を用いた研究から明らかになった。遺伝子組み換え技術によってCAO遺伝子のごく一部を取り除いてやると、その植物は、大量にCAOタンパク質を蓄積し、大量にクロロフィルbを合成するようになるのである。

さらに詳細に研究を進めることによって、クロロフィルbがCAOタンパク質のある特別な部分と何らかの相互作用をすることによって、CAOタンパク質自身が分解されてしまうことが明らかになった。

つまり、CAOタンパク質は、自分自身が作り出したもの(クロロフィルb)が引き金になって、(役目を終えると)分解してしまうのである。このような仕組みは一般にフィードバックメカニズムと呼ばれているが、葉緑体の中で、このようにタンパク質分解を伴うフィードバックメカニズムが見つかったのは初めてのことである。

この研究によって、植物がどのようにして、常に多すぎず、少なすぎず、光合成色素の合成しているのか、そのメカニズムの一端が明らかになった。


Akihiro Yamasato, Nozomi Nagata, Ryouichi Tanaka, and Ayumi Tanaka (2005) The N-Terminal Domain of Chlorophyllide a Oxygenase Confers Protein Instability in Response to Chlorophyll b Accumulation Plant Cell 17:1585-1597
Nakagawara E, Sakuraba Y, Yamasato A, Tanaka R and Tanaka A (2007) Clp Protease Controls Chlorophyll b Synthesis by Regulating the Level of Chlorophyllide a Oxygenase. Plant J 49:800-809

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