低温研ニュース

2007年12月 No.24  

People … 新しい研究者の紹介

日高宏

「−ミクロな世界から宇宙へアプローチ−」

日高 宏 (低温基礎科学部門)

10月1日付けで、低温基礎科学部門・雪氷物性/惑星科学グループの助教に着任致しました日高宏です。低温研では4年半ほど前からポスドクとして働いていました。そのため、見知った顔だと思われる方も多いと思いますが、新任教員紹介と云うことで研究紹介も兼ねた自己紹介をさせていただきます。

私は低温研に来る前は、東京都立大学(現:首都大学東京)で学生をしておりました。当時の専門は原子物理学で、超高真空装置内で低温ガスと分子イオンの衝突実験を行っていました。一般に原子・分子−イオン衝突の実験研究は、超高真空装置内での衝突による電荷交換、光や放出電子の検出、また衝突粒子や放出物のエネルギーを測定することにより行われます。そして実験結果の多くは、現在の原子物理学や量子力学理論によって、特定の条件(低エネルギー領域等)を除いては、非常に良く説明されています。これは、実験のほとんどが理想的な二体衝突であることに起因すると考えられ、このような精密実験を行うには高度な実験技術が必要となります。幸いにも、私はこの業界で様々な実験技術を身につけることが出来、有意義な学生生活を過ごせました。一方、このような基礎科学的で“マニアック”な分野では、研究成果の応用がほとんどなく、研究のモチベーションの設定が困難であるという辛さも体験しました。

都立大学で学位を取得後、低温研にポスドクとしてやって来て、専門は原子物理学から惑星科学・星間化学に変わりました。宇宙空間は真空で、星や惑星以外何も無いと思われている方も多いと思いますが、実はそうではありません。星間空間には分子雲と呼ばれる高密度なガス状の天体が存在しており、星や惑星の生成工場となっています。この高密度なガス雲の中では様々な化学反応が生じていることが知られており、実際に約160種の分子が天文観測によって見つかっています。これらの分子の多くはH,C,N,O等の基本的な原子から様々な化学反応を経て生成されています。現在の私の研究は、実験装置内にできるだけ宇宙空間に近い環境(組成、密度、温度等)を再現し、宇宙空間で生じる化学反応をシミュレーションすることです。このシミュレーション実験を行うことで、生成分子の反応ルートや生成速度を求め、宇宙空間での分子進化のメカニズムや、様々な天体の環境に関する知見(温度、組成等)を得ることができます。これらの知見は、原子から星・惑星形成への物質進化の初期段階を理解する上で重要な情報となります。

原子物理から惑星科学と大分異なった分野へ移ったと思われたかも知れませんが、そんなことはなく、研究の対象は前分野と同様に原子や分子の反応であるため、むしろ学生時代原子物理学で培ってきた実験技術が大きく役に立っています。一方、大きく異なったことが二つあります。一つは、研究のモチベーションの設定が明快になったことです。そしてもう一つは、実験結果の理解が非常に困難になりました。これは、研究の対象としている反応が、多体衝突によって生じていることや、分離できない複合反応の一部になっているためです。既存の理論によるサポートを受けづらく困難も多いのですが、北大の開拓者精神をもって意欲的に現在の研究テーマに挑戦していきたいと思っています。

原子や分子といったミクロな世界から、宇宙・惑星といったマクロな世界の研究に貢献していきたいと思います。

図
図:星間塵表面での分子生成反応

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北海道大学 低温科学研究所
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