2003年3月 No.15
遠藤辰雄(寒冷海洋圏科学部門)
北大理学部地球物理の大学院修士課程を修了後、母校の小樽潮陵高校に3年 間奉職し、その後再び博士課程に戻りましたが、途中の1968年から理学部助手と して故孫野長治先生のご指導の下で雲物理学の諸現象の謎解きに世界中を奔走す るお手伝いとして、胸踊る研究生活が始まりました。
北陸の冬季雷の危険な観測ではいろいろな経験をしました。雷雲の電気的 構造を調べる特殊ラジオゾンデは落雷の危険性のあるときに長い金属線のついた 気球を飛ばします。かなり近くで落雷がありましたが、その時には直前に長径が 10cmぐらいの餃子みたいな形の巨大雪片(giant snowflakes)がすべて同じ方向 を向いて水平の姿勢でシンシンと降るのが見られました。しかし手元にカメラが なく証拠を残すことは出来なくて逃した魚の話になってしまいました。 またカ ナダ北極圏極寒地イヌビックやノールウエイの北部カウトケイノなどで極寒型の 雪結晶観測等にも臨みました。
その後、1981年に低温科学研究所に割愛され、当時新設された降雪物理学 部門の旗揚げに邁進しました。そこでは、新型レーダの開発や、それを活用した 人工降雪の実現化に夢中になりました。それは気象観測用のラジオゾンデの下に ドライアイスの塊を砕いて入れたネットを結んで、一緒に降雪雲の中に狙って放 球することでした。そのことは雲の中に雪結晶の元になる小さな氷の粒を瀰漫さ せることに当り、これが種まき(seeding)となって、人工的に降雪を起すとい う原理であります。結果を検知するのはレーダですが、それは特別に雨ではなく 感度の弱い雪用に開発したもので、しかも気球を自動的に追跡するラジオゾンデ のアンテナの向きに追従して自動追跡するモードも持っていることであります。 このモードで何回も試行しましたが、いずれも自然の降雪と区別がつかず失敗で した。そこで晩冬の穏やかで曇りの夜半に試行しましたが、やはり失敗して落胆 していたのですが、このレーダのパラボラアンテナからの電波の送受信の幅が1 度と狭く、その角度間隔で仰角を上げながら水平スキャンするので上空の空間を 残すことなく走査できる特徴があります。それで捜したのですが、あきらめて約 25分も経ってから、突然に江別当りの上空に小さなエコーを発見しました。それ の垂直断面に切ってみるとコンマ型に尾を引く雪足が確認されたのであります。 一緒にいた院生と歓声をあげて歓びました。幸い地上に落下する前に蒸発したの ですが、最盛期のエコーから計算するとおよそ12トンの人工降雪が発生したこと になります。この話はもう時効ですが、種まきされた場所で直ぐに発見されるの ではなく20〜30分後に風に流されて風下の別の場所で検出可能なまでに成長して 初めて発見されたことになります。
その後、第30次南極観測隊に参加し無人気象観測網展開で世界気候変動研 究計画に寄与して参りました。最近の環境問題では、降雪の酸性化に着目し、石 狩平野、母子里に加えて北極圏ニィーオルセンにおける観測を行って参りました。 これらが走馬灯の様によみがえって来る思い出も、北大のしかも低温研に所属し ていたから可能であったものと感謝する次第であります。