<<< これまでの歩み >>>
昭和45年(1970)5月〜平成7年(1995)3月
  低温科学研究所・物理系の融雪科学部門(教授1名、助教授1名、助手2名)
  として活動
平成 7年(1995)4月
  低温科学研究所の全国共同利用研究所への改組により寒冷陸域科学部門
  「雪氷循環分野」(教授1名、助手1名)と「雪氷気象グループ」(助教授1名、助手1名)
  に分かれて活動
平成16年(2004)1月
  「雪氷循環分野」の「理論雪氷学分野」への変更に伴い、「雪氷気象グループ」
  に旧雪氷循環が合流し「水文気象グループ」(助教授1名、助手2名)と改称
平成18年(2006)4月
  「氷河・周氷河グループ」が合流し新「水文気象グループ」(助教授1名、助手3名)に
平成19年(2007)4月
  「助教授」は「准教授」、「助手」は「助教」に配置換(准教授1名、助教3名)
平成20年(2008)10月
  改組により水・物質循環部門の「水文気象分野」に改称(准教授1名、助教3名)
平成21年(2009)4月
  スタッフ(助教3名)と研究員・大学院生らで活動を継続
平成24年(2012)5月
  スタッフ(助教2名)で活動を継続


<<< 研究概要 >>>
  寒冷雪氷圏における熱収支や水収支の研究は、温度変化あるいは水の相変化に伴う大気現象、水文現象、凍土現象の理解にとって極めて重要である。特に、水惑星と呼ばれる地球上において雪氷が果たす役割は大きく、本研究グループでは森林流域や雪氷面における水や熱さらには物質の循環に関わる現象を研究対象にしている。また、環境問題としては酸性雪の変質過程を雪が介在した水循環過程の中で明らかにする研究や、温暖化に対する永久凍土環境の変化に関する研究も行なっている。

<<< 研究テーマ >>>
1.寒冷圏熱収支・水収支
2.森林流域における物質循環
3.積雪の変態と融雪水の浸透機構
4.積雪及び凍土地帯の河川流出機構
5.水循環過程における化学物質の挙動
6. 永久凍土環境
7. 周氷河地形の発達過程




◆2004年以前の研究 ◆2005年〜2010年の研究

■2016年度の研究課題と成果■
(1)春先の大雨時における積雪内部での降雨融雪浸透水の挙動 (石井吉之)
  Liquid water movement in a snowpack under the heavy rainfall event
 降雨と融雪が重なって生じる融雪災害の発生メカニズムを解明するため、母子里において、2011〜2013年に引き続き、2016年4月14日(積雪深120cm)に降雨量を3通りに時間変化させた模擬降雨散水実験を実施した。3つの異なるライシメータ上で3回の実験を行ったが、3回とも積雪底面流出は出現しなかった。ライシメータ底面だけに厚さ5cmの氷層が存在し、底面流出を阻んだと見られる。この点を改善し、2017年4月に再び実験を行う。なお、熱収支解析に用いる各種気象要素の観測および取得データをWebを介して札幌に送信するシステムは通年稼動中である。この研究には北大環境科学院修士1年の簗場大将が参加した。また、技術部スタッフ(中坪俊一・森章一・高塚徹・千貝健・小野数也)各氏の多大な支援を受けている。

(2)多次元水分移動モデルによる模擬降雨散水実験の検証 (石井吉之)
  Verification of rain simulation experiments by the multi-dimensional water transport model
 融雪期の母子里で実施した雪面への模擬降雨散水実験の結果を多次元水分移動モデルで再現できるかどうかを検討した。計算は実際の層構造、密度、粒径、含水率を与えて2次元で行い、層境界での水みち発生パターンを5通りの乱数パターンで与えた。また、左右両端の境界から逃げた水が戻らないように設定した。モデルで計算された流出量は一部のケースでは実測をよく再現できたが、できないケースも見られた。解析を通じ、粒径コントラストは流出率や底面到達のタイミングに大きく影響するため、浸透実験の際には詳細な測定が重要になることが示唆された。この研究は平島寛行・山口悟(雪氷防災研究センター)両博士との共同研究である。

(3)大雪山における永久凍土 (曽根敏雄)
  Permafrost environment in the Daisetsu Mountains
 大雪山の風衝砂礫地における永久凍土の下限高度の現状とその変化を把握するための調査を行っている。標高1740m地点では、地表付近の地温観測から永久凍土が存在する可能性が高いと考えられたが、地温観測から永久凍土はなく約7mの季節凍土が存在することが判った。ここでは表層直下に基盤岩があり地温の変動が大きいことが、永久凍土の発達に不利な条件となっている。また標高1850m地点では15mよりも深い永久凍土が発達することが判明した。

(4)南極半島James Ross島における周氷河環境 (曽根敏雄)
  Periglacial environment in James Ross Island, Antarctic Peninsula region
 南極半島James Ross島において周氷河環境・地形に関する研究を行っている。Lachman、Rink両地域において、ソリフラクションロウブや岩石氷河の移動速度のデータが得られた。また永久凍土の地温および気温のデータが得られた。これから2016年には南極半島東部に特徴的な現象が発生したことが判った。すなわち冬期にしばしば気温が0℃を上回り、月平均気温が平年よりも10℃以上高い月がみられ、年平均気温が平年よりも約2℃高かった。このため、ソリフラクションロウブの表面礫の移動量も大きな値が観測された。本研究はアルゼンチン南極研究所J.A. Strelin研究員との共同研究である。


■2015年度の研究課題と成果■
(1)春先の大雨時における積雪内部での降雨融雪浸透水の挙動 (石井吉之)
  Liquid water movement in a snowpack under the heavy rainfall event
 降雨と融雪が重なって生じる融雪洪水の発生メカニズムを解明するため、母子里の融雪観測室前の露場において、2011〜2013年の4月に7回の模擬降雨散水実験を実施して来た。これに引き続き、2016年4月には降雨量を4通りに時間変化させた場合の散水実験を計画している。本年はそのために必要な散水実験用施設を製作した。また、熱収支解析に用いる各種放射量、気温湿度、風向風速、積雪深、降水量などの観測機器の整備と更新を行うと共に、観測データをWebを介して札幌に送信するシステムを開発した。この研究には技術部スタッフ(中坪俊一・森章一・高塚徹・千貝健・小野数也)各氏の多大な支援を受けている。

(2)多次元水分移動モデルによる模擬降雨散水実験の検証 (石井吉之)
  Verification of rain simulation experiments by the multi-dimensional water transport model
 融雪期の母子里で実施した雪面への模擬降雨散水実験の結果を多次元水分移動モデルで再現できるかどうかを検討した。計算は実際の層構造、密度、粒径、含水率を与えて2次元で行い、層境界での水みち発生パターンを5通りの乱数パターンで与えた。また、左右両端の境界から逃げた水が戻らないように設定した。その結果、積雪底面流出の出現に最も効くと考えていた積雪層境界の粒径コントラストは、層境界で浸透水の滞留を引き起こすという面では重要であるが、積雪底面流出の出現やその流出率は、層境界を通過した後の水みちの発達の仕方に強く依存することが明らかになった。この研究は平島寛行・山口悟(雪氷防災研究センター)両博士との共同研究である。

(3)大雪山における永久凍土 (曽根敏雄)
  Permafrost environment in the Daisetsu Mountains
 大雪山の風衝砂礫地における永久凍土の下限高度の現状とその変化を把握するための調査を行っている。地表付近の地温観測から標高1740m地点では永久凍土が存在する可能性が高いことが判ったので、ここで10mよりも深いボーリングを行い、地温観測装置を設置した。また標高1720mの湿原では、一部のパルサ(永久凍土の丘)がほぼ消滅したが、衰退していく過程を地温観測から捉えることができた。

(4)凍結融解深測定装置の開発 (曽根敏雄・森章一)
  Monitoring instruments for freeze-thaw depth
 土壌の凍結融解深を測定する目的で、ひとつの細い掘削孔において深度の異なる多点の地温を測定できる機器の開発を行っている。本年度はセンサー部の小型化と記録部の省電力化を進めた機器を製作した。そして道東の2つの小学校にこの装置を設置した。これらの小学校では、土壌凍結を教材としたアウトリーチプログラムとして、1〜7日おきに生徒が凍結深を観測している。このため現地での観測者による測定との比較が可能である。本研究は、原田鉱一郎博士(宮城大学)との共同研究である。


■2014年度の研究課題と成果■
(1)春先の大雨時における積雪内部での降雨融雪浸透水の挙動 (石井吉之)
  Liquid water movement in a snowpack under the heavy rainfall event
 母子里における2011〜2013年の3融雪期の模擬降雨散水実験では、積雪底面流出が顕著に現れる場合とそうでない場合とが観測された。そこで、流出が顕著であった実験(積雪深116cm、総雨量120mm)について、積雪底面流出水の水素同位体比(δD)とNaイオン濃度の時間変化を解析し、降水の積雪内での浸透過程を考察した。δDは流出量の時間変化ともよく対応し、浸透過程は新しい水と古い水との単純な2成分混合で考えられる。一方Naは、濃い水を薄い濃度の積雪層に散布したにもかかわらず、積雪底面からは撒いた水より濃い水が流出した。今後は液相と固相とを区別し、雪粒間での再凍結や水みち形成などを考える必要がある。

(2)寒冷山岳地域における分布型水文モデルの最適化 (石井吉之)
  Optimization of distributed hydrological model in cold mountainous regions
 寒冷積雪地域における水文過程のモデル化にむけて、積雪変質モデルを用いた山岳域の分布型水文モデルを開発している。これまで母子里での観測結果を用いて、雪氷防災研究センターが所有する積雪変質モデルの検証や改良を行い、ライシメータで観測された底面流出量をほぼ正確に再現できるようになった。本年は計算結果を面的に検証するため、流域内の各グリッドにおける底面流出量を入力として与え、タンクモデルを用いて河川流出量の時間変化を計算した。その結果、融雪初期においては河川流出量が比較的良く再現される一方で、融雪期後半では流出量が過大に計算される傾向が見られた。今後、降水量の標高補正を再調整し、流域内の積雪分布をより正確に組み込むことが必要と考えられる。この研究は平島寛行・山口悟(雪氷防災研究センター)両博士との共同研究である。

(3)大雪山における永久凍土 (曽根敏雄)
  Permafrost environment in the Daisetsu Mountains
 大雪山の風衝砂礫地における永久凍土の下限高度の現状とその変化を把握するための調査を行っている。地表付近の地温観測から標高1740m地点では永久凍土が存在する可能性が高いが、標高1710m、1670m地点には、永久凍土が存在しない可能性が高いことが判った。また大雪山には、永久凍土の丘であるパルサの分布地があるが、この分布地の南側のパルサがほとんど消滅した。ここでは2012-13年冬に多雪であったことが影響していると考えられる。

(4)南極半島James Ross島における周氷河環境 (曽根敏雄)
  Periglacial environment in James Ross Island, Antarctic Peninsula region
 南極半島James Ross島において周氷河環境・地形に関する研究を行っている。Lachman地域においては、ソリフラクションロウブの表面礫の移動速度と内部構造に関する知見、および岩石氷河とprotalus lobeの移動速度のデータが得られた。Stoneley地域のprotalus lobeに関して、新しい露頭から内部構造に関する新たな知見が得られ、また移動速度が判明した。またLachmanおよびRink地域の永久凍土の地温変化のデータが得られた。本研究はアルゼンチン南極研究所J.A.Strelin研究員との共同研究である。


■2013年度の研究課題と成果■
(1)降雨と融雪が重なって生じる融雪洪水の雪氷学的研究 (石井吉之)
  Hydrological study of snowmelt flooding during a rain-on-snow event
 降雨と融雪が重なって生じる融雪洪水の発生メカニズムを解明するため、母子里の融雪観測室前の露場において、2011〜2013年の3融雪期に、雪面上に100mm以上の大雨が降った時を想定した模擬降雨散水実験を実施した。その結果、積雪底面からの流出が顕著に現れる場合とほとんど現れない場合が見られた。流出状況は散水量や積雪深とは関係がなく、その時の積雪の層構造に応じて多様であった。つまり、積雪内部で貯留される場合とされない場合の両方が起こり得ることが改めて明らかになった。今後は層境界での粒径コントラストを定量的に評価し、低温室実験や数値実験などによって、どのような層境界の時に鉛直浸透が妨げられるかの解明をめざす。また、野外で粒径コントラストを簡易に判別する方法を開発する。この研究は本研究所の中坪俊一・森章一・的場澄人の各氏との共同研究である。

(2)降水、擬似浸透水、地下水のトリチウム濃度の比較 (石井吉之)
  Comparison of tritium concentrations in rainwater, simulated infiltrating water, and groundwater
 2008〜2012年に実施した低温研共同研究の研究成果をとりまとめた。実際の地表面付近の降雨浸透水を模擬した水(擬似浸透水)を初期地下水として採取し、トリチウム濃度を測定した。東京においては、擬似浸透水のトリチウム濃度を降水、大気中水分、地下水、湧水、植物樹液のトリチウム濃度と比べた。降水、大気中水分、擬似浸透水の濃度は月毎や降雨毎に大きく変動するのに対し、地下水と湧水の濃度は年間を通じほぼ一定であった。次に、日本列島の特徴的な4地点、すなわち札幌、新潟、東京、松山において2004年から2010年にかけて月毎に擬似浸透水を採取し、地域によるトリチウム濃度の違いを調べた。その結果、札幌と新潟で高濃度、松山と東京で低濃度となった。各地域で年間最高値と最低値が決められ、これら二値からなる混合モデルによって、各地域における擬似浸透水のトリチウム濃度が推定可能であることが示唆された。本研究は斎藤正明(都産技研)、今泉洋(新潟大)、加藤徳雄(愛媛県立医技大)、北岡豪一(岡山理大)の各博士との共同研究である。

(3)インドネシアの泥炭・森林における火災と炭素管理 (石井吉之)
  Wild fire and carbon management in peat-forest in Indonesia
 JST-JICA連携国際科学技術協力事業(SATREPS、代表・大崎北大教授)に参加し、中央カリマンタンにおける森林泥炭火災を防御するための地下水管理手法について研究している。昨年構築された広域地下水流動モデルの水収支状況は、泥炭地下水層の主たる涵養源が降水、流出源が蒸発散となっており、乾期に無降雨が続くと次の顕著な降雨イベントまで地下水位は減少し続けることが明らかになった。さらに、地下水位低下量は無降雨継続日数に強く依存することが感度実験によって確認された。4年半の研究成果をまとめ、Springer社の電子出版ブックスに投稿した。この研究は北大、パランカラヤ大などとの共同研究である。

(4)南極半島King George島における永久凍土環境 (曽根敏雄)
  Permafrost environment in King George Island, Antarctic Peninsula region
 King George島では、過去50年の間に著しい温暖化が進み、平均気温も北半球での永久凍土の南限に近い-2℃付近に上昇している。このため永久凍土の変化が生じていることが推察される。そこでPotter半島の代表的な場所、数地点において地温観測を行なっている。本年度は2年以上の期間のデータを得ることが出来た。その結果、海岸近くのサイトでは永久凍土が存在し活動層厚さが約2m程度であること、地下氷を含む標高約180mサイトでは、活動層厚さが約1m程度で3m深さの地温が平均約-2℃であること等が判った。これらから、地表面に撹乱があった場合を除いては、現在この地域では大きな永久凍土の衰退は見られないことが判明した。

(5)大雪山におけるパルサの最近の変化 (曽根敏雄)
  Palsas in the Daisetsu Mountains
 泥炭質の永久凍土丘であるパルサは、日本では大雪山だけに存在が知られている。パルサは永久凍土の指標地形であるので、パルサの分布面積の調査から、永久凍土の面積が継続して減少していることが判明した。夏の気温と表層物質とが、永久凍土が維持されるか否かに大きく関わっていると考えられた。また2012-2013年の積雪状況が例年と異なりパルサ分布地の南部で積雪が多かった。この積雪の影響で地温が高かったことが、今後南部のパルサの衰退に繋がると予測された。


■2012年度の研究課題と成果■
(1)降雨と融雪が重なって生じる融雪洪水の雪氷学的研究 (石井吉之)
  Hydrological study of snowmelt flooding during a rain-on-snow event
 降雨と融雪が重なって生じる融雪洪水の発生メカニズムを解明するため、昨春に引き続き、母子里において模擬降雨の散水実験を行なった。積雪深は昨春の2倍近い約170cmであったが、散水開始後50〜90分で積雪底面から水が出始め、総散水量170〜120Lに対し46〜48Lの流出量であった。散水量と流出量が定常となった時点における流出水に含まれる模擬降水の割合は、水および同位体の収支式から概ね6〜7割と見積もられた。これまで、晴天日の融雪や弱い降雨時には、雪面から供給された水が積雪内部に貯留されていた水を押し出すように流出し、積雪底面から流出する水の9割以上がこうした貯留水であると言われているが、多量の降雨時には異なった流出過程となることが示唆された。


(2)インドネシアの泥炭・森林における火災と炭素管理 (石井吉之)
  Wild fire and carbon management in peat-forest in Indonesia
 JST-JICA連携国際科学技術協力事業に参加し、中央カリマンタンにおける森林泥炭火災を防御するための地下水管理手法について研究している。ブロックCと呼ばれる約100平方kmのモデル地区内において、表層および深層の地下水水位変動や、それらと運河水位との関係を調べた。その結果をもとに、対象地区における「現在」の地下水流動を再現し、「過去」の地下水流動の復元を試みるとともに、「将来(未来)」の地下水流動を予測するための広域地下水流動モデル(MODFLOW)を構築した。数値計算の結果、1)甚大な森林泥炭火災が発生した2009年の干ばつ時には、運河近傍では、泥炭層の地下水位が地表面から2m程度低下していた; 2)メガライス・プロジェクト以前の地下水位は、浅層および深層ともに現在より高く、仮に2009年と同等の干ばつが起きても、現在より1m程度高く保たれる; 3)運河に提案されているダム(堰)群を建設した場合、運河から500m以内の範囲では、2009年と同等の干ばつが起きても、10cm以上の水位低下抑制効果が期待される、などが明らかになった。


(3)南極半島James Ross島、Seymour島における氷河・周氷河環境 (曽根敏雄)
  Glacial and periglacial environment in James Ross Island and Seymour Island, Antarctic Peninsula region
 南極半島地域において、最近の温暖化による地形変化に関する研究を続けている。Seymour島、James Ross島での観測から、2009年以降は気温・地温はやや寒冷化傾向にある。このためJames Ross島Rink地域では、ソリフラクションによる物質移動が活発ではなくなり、またアイスキャップが拡大傾向にあることが判明した。本研究は、J.A.Strelin研究員(アルゼンチン南極研究所)、福井幸太郎博士(立山カルデラ砂防博物館)、および森 淳子博士(低温研)との共同研究である。

(4)福島県御霊櫃峠における斜面物質移動 (曽根敏雄)
  Solifluction movement in the Goreibitsu Pass,Fukushima Prefecture
 福島県御霊櫃峠(標高約1000m)は季節凍土地域にあるが、冬期に大きな斜面物質移動が生じる。これまでの研究で、多くは土壌の凍結融解により地表面の礫が移動することが判明した。しかし移動様式については、これまでの観測では解明できなかった。そこで、XY方向の動きが捉えられる装置を設置して、地表面の礫の移動観測を行なった。その結果、礫の斜面方向の動きに加えて、凍上・融解沈下量も明らかにすることが出来た。本研究は、田村俊和教授(立正大学)、瀬戸真之博士(埼玉大学)、森 淳子博士(立正大学)との共同研究である。


■2011年度の研究課題と成果■
(1)降雨と融雪が重なって生じる融雪洪水の雪氷学的研究 (石井吉之)
  Hydrological study of snowmelt flooding during a rain-on-snow event
 降雨と融雪が重なって生じる融雪洪水の発生メカニズムを解明するため、母子里の融雪観測室前の露場において、雪面上に著しい大雨があった場合を想定した模擬降雨実験を行なった。水の安定同位体をトレーサーに用い、マーキングされた水の動きを追跡することによって積雪内での水貯留や積雪底面流出の実態を明らかしようとした。1平方mの雪面上に6時間かけて200Lの模擬降雨を散布したが、積雪底面からの流出水はほとんど現れなかった。このことから、雪面上に多量の水が供給されると、積雪内における水平方向の水の流れが予想以上に顕著になることが分かった。

(2)インドネシアの泥炭・森林における火災と炭素管理 (石井吉之)
  Wild fire and carbon management in peat-forest in Indonesia
 JST-JICA連携国際科学技術協力事業に参加し、中央カリマンタンにおける森林泥炭火災を防御するための地下水管理手法について研究している。約100平方kmのモデル地区内において、32地点の表層地下水位、6地点の深層地下水位、13地点の運河水位を連続観測し、地下水挙動およびそれと運河水位との関係を調べ、以下が明らかになった。(1)浅層地下水位は降雨応答が明瞭であるが、深層地下水位の変化はより緩慢で、運河水位と類似した変化を示す。(2)浅層地下水位は運河周辺で急激に低下する。その水位勾配は運河水位が低い時ほど大きい。(3) Lg3地点は周囲の運河水位観測点の中で最低となる時が多く、この付近で運河からの漏水が起きている可能性がある。

(3)北海道大雪山のパルサの変化 (曽根敏雄)
  Palsas in the Daisetsu Mountains
 泥炭質の永久凍土の丘であるパルサは日本では大雪山だけに存在が知られている。ボーリングと地温観測により、1.同じ分布地域のなかでも、個々のパルサの内部の地質構造は同じとは限らないこと、すなわち丘状の地形を作るもとになるアイスレンズの存在する深さが個々のパルサによって異なる可能性があること、2.これまで5m程度と考えられてきたが、永久凍土の下限深度が深いものでは7-8m付近にあること、が明らかになった。また2010年の夏は気温が高く、通常1m程度の季節的融解層が深くなり2mを上回った。このため、特に小規模のパルサの面積が減少したことが判明した。

(4)南極半島James Ross島、King George島における氷河・周氷河環境 (曽根敏雄)
  Glacial and periglacial environment in James Ross Island and King George Island, Antarctic Peninsula region
 南極半島地域、King George島Potter半島では、地温観測により永久凍土上部の最大融解深は1-2mであり、これより浅い部分に氷層を多く含む地域では、斜面で活動層崩壊が大規模に発生していることが判明した。James Roos島においては、GPR(地下レーダー探査)や露頭観察からStoneley地域のprotalus lobeの内部構造が明らかになり、また内部2層の氷からC14年代が得られた。本研究は、J.A.Strelin研究員(アルゼンチン南極研究所)、福井幸太郎博士(立山カルデラ砂防博物館)、斉藤和之博士(海洋研究開発機構)および森 淳子博士(低温研)との共同研究である。

(5)凍結融解センサーの開発 (曽根敏雄)
  Automatic freeze-thaw sensor
 土壌の凍結・融解深の現場観測には凍結深度棒が用いられてきた。しかし自動観測は出来なかった。そこで、5mm深度ごとに凍土の有無が自動観測できる凍結融解センサーを開発した。このセンサーは、以下の特徴を持つ。1.ある点における水が凍結状態(氷)か否(水)かを電気的に検知する。2.30cm深単位で3m程度の深度まで計測できるが、エコー型であるため、計測点が増えてもケーブル数は変わらず、深度方向の多点観測にも細い孔しか必要としない。3.乾電池駆動により、1時間間隔の計測で1年以上観測可能である。本研究は、森 淳子博士(低温研)との共同研究である。