過去の低温研セミナー

第10回低温研セミナー「有機エアロゾルと大気環境」 河村 公隆 (大気環境)

日時 2010年 6月28日(月)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
エアロゾルは、大気中に浮遊する微粒子を意味しますが、有機物の占める割合はしばしば50%を超えます。エアロゾルは太陽光を反射・吸収するとともに、凝結核として雲の形成に関与することにより地球放射への間接効果を持ちます。更に、雨や降雪の過程に関わり、地球上の水循環にも重要な役割を果たします。エアロゾルを構成する有機物のおよそ半分は水に溶ける成分からなっており、カルボン酸など極性の有機成分は水蒸気を凝結する特性を持ちます。このように有機エアロゾルは気象や気候変化にとって重要な役割を果たしていると考えられておりますが、その組成・起源についてはよくわかっていない部分が多くあり、大気科学における大きなブラックボックスとして重要です。セミナーでは、有機エアロゾルの分子組成の特徴から、その起源・変質過程について現状の理解をお話します。特に、イソプレンなど植物から放出される揮発性有機物(VOC)は、これまでエアロゾルの生成に大きな寄与をしていないと考えられていたのですが、最新の研究からイソプレンの酸化生成物などがエアロゾル中に数多く見つかっております。発表では生物起源VOCが有機エアロゾルの生成にどう寄与しているのかを紹介するとともに、有機エアロゾルが関わる生物圏と大気圏の相互作用や大気環境へのインパクトについても考えてみたいと思います。

第9回低温研セミナー「氷河の流れとその短期変動 −世界で最も気の短かい氷河研究−」 杉山 慎 (氷河・氷床)

日時 2010年 4月26日(月)17:00-18:00
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
氷河の研究といったら何を想像されますか?低温研のみなさんは、氷コア解析による古環境復元を思い浮かべるかもしれません。数10万年という悠久の時間を相手にする氷コア研究とは対照的に、数日、数時間というスケールで氷河のふるまいを理解することも重要です。たとえば氷河が流れる速さは、氷を支える力のつりあい、例えば氷河底面の状態に応じて刻々と変化します。GPSや人工衛星を用いた近年の測定技術は、氷河の流動とその短期的な変動に新しい知見をもたらしてきました。そしてそのような流動変化が今、南極やグリーンランド氷床に大きな変動をもたらしています。このセミナーでは、GPSや氷河底面での観測を用いた、世界で最も時間スケールの短かい氷河研究についてお話しします。また最新の成果として、今年2月から3月にかけてパタゴニアで実施した熱水掘削と観測の結果を報告し、その意義と今後の展望について紹介します。氷河の底で撮影した映像など、野外観測の写真や映像も準備します。学生のみなさんをはじめ、ぜひさまざまな方に聴いて頂けたら幸いです。

第8回低温研セミナー「昆虫の自然免疫 - 昆虫 vs 微生物」 落合 正則 (生物分子機構)

日時 2009年 9月28日(月)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
すべての生物は秩序をもって、外界から侵入してくる異物から己を守っている。この自己を守るシステムを生体防御系という。昆虫は地球上で海洋を除くほとんどの陸地に生息しており、多様な生活環境に適応している。昆虫が地球上でもっとも繁栄している動物群に成りえた理由のひとつとして、様々な環境に存在する病原体に対抗できる強力な生体防御系をもっていたためと考えられている。高等脊椎動物にみられる抗体多様性を利用した獲得免疫(後天性免疫)をもたないにもかかわらず、無脊椎動物である昆虫の生体防御系が強力なのは自然免疫(先天性免疫)が機能的に発達しているためである。
本セミナーでは微生物感染に対して昆虫が備えている自然免疫の分子機構を概説し、最近の我々の研究の成果を紹介する。

第7回低温研セミナー「オホーツク海・北西太平洋の熱塩循環と物質輸送」 三寺 史夫 (環オホーツク観測研究センター)

日時 2009年 7月28日(火)16:00-17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
海氷が生成される際にはブラインと呼ばれる低温・高塩分(高密度)水が海氷 から排出され、海洋における中層・深層循環の主な要因となっている。オホーツク海では北西陸棚域で海氷が大量に生成されて高密度水ができており、オホーツク海から北太平洋にかけての中層循環を駆動している。この高密度水および中層水には酸素や二酸化炭素などが溶存するとともに、大陸棚上に沈積している物質を大量に含んでおり、太平洋の生物地球化学過程においても重要な役割を果たしている。
本セミナーでは、環オホーツク観測研究センターが取り組んできた中層循環や物質輸送に関する観測および数値モデルの研究を紹介する。中でも、植物プランクトンの光合成にとって必須の微量栄養物質である鉄に注目してきた。アムールオホーツクプロジェクトや道東沖の定線(北海道区水産研究所)などの観測から、オホーツク海北西陸棚から親潮域にかけて中層(約300m深)に高濃度の鉄が存在することが見出され、それが北西太平洋の生物生産に重要であることが明らかとなりつつある。そのような中層循環は、塩分を介して表層の風成循環や海氷形成、千島列島沿いの潮汐混合、北太平洋亜寒帯循環と密接に結びついた 3次元的な循環を形成している。このため気候変動に敏感であり、温暖化による物質輸送の弱まりが懸念されている。一方、釧路、問寒別、カムチャツカで実施したエアロゾル観測とアラスカとカムチャツカで採取されたアイスコアの解析から、大気由来の鉄の海洋表面への沈着量の定量的な評価も行っており、生物生産へのインパクトを評価している。さらに、海氷生成時の大気起源物質の輸送や、海氷と海氷下海洋とでブラインを通しての物質輸送・交換に関しても研究を進めている。

第6回低温研セミナー「光合成研究にどのように取り組むか」 田中 歩 (生物環境部門・生物適応)

日時 2009年 5月26日(火)16:00-17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
光合成は地球上の生命活動を支え、地球環境の形成に大きな役割を果たしてきた。このような光合成の研究は、他の生命科学の分野とは少し異なった様式で発展してきた。多くの分野では、新しい概念が研究の発展とともに次々と提案されてきた。しかし、光合成の分野では、主要な概念は20世紀の中ごろまでに確立し、その後の研究は、この概念を分子の言葉(分子機構)で解明することに向けられた。このため、過去3度にわたり、光合成研究は終わったと指摘された。光合成研究のもうひとつの特徴は、他の分野との交流が希薄であったことが挙げられる。例外的に、物理化学の分野から大きな影響を受けたが、生命科学の中にあっては、比較的独立して発展してきた。しかし、現在、このような状況に変化が起こっている。光合成の新しい役割が提案され、また多くの分野との密接な関係が生まれてきた。今回のセミナーでは、先ず、このような光合成研究の特徴を紹介する。できれば、低温研の他の分野との違いも議論したい。次に、このような研究状況を背景に、我々が取り組んでいる研究を紹介したい。特に今回は光合成の進化に焦点をあてる。光合成による酸素発生は、生物のみならず地球環境にとっても大きなインパクトを与えた。しかし、どの様にして酸素を発生する光合成が誕生したかは、殆ど理解されていない。勿論、これは困難な課題であり、現在のところ大きな進展は期待されない。その中で、この理解に向けた我々の些細な試みを紹介する。

第5回低温研セミナー「海氷生成と海洋中深層(熱塩)循環、温暖化で循環は弱まる?」 大島 慶一郎 (共同研究推進部、環オホーツク圏;物質循環部門、海洋・海氷動態)

日時 2008年11月27日(木)16:00-17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
海洋の中深層まで及ぶ地球規模の循環(中深層循環)は、重い水が沈み込みそれが徐々に湧き上がってくるという密度(熱塩)循環である。重い水は、海氷生成の際にはき出される高塩分水が重要な生成源になっている。南極海の沿岸近くでは大量の海氷が生産されるために、この時に作られる重い水は海底に沈みこみ、世界で一番重い海水である南極底層水として世界中の底層に拡がっていく。海氷生産量は中深層循環とその変動を決める最重要な因子にも拘わらず、それを捉える現場観測が極めて困難であることから、変動はもとよりその平均的な量・分布さえも今までよくわかっていなかった。我々研究グループは、人工衛星データに現場観測・気象データも組み合わせて、海氷生産量のグローバルマッピングを行ないつつある。南極海での海氷生産量マッピングからは、ロス海に次ぐ高い海氷生産領域が日本の南極昭和基地東方約1200kmにあることもわかった。ここが未知の南極底層水生成域である可能性が示され、それを確かめるべくここでの集中観測を現在実施中である。オホーツク海北西部は北半球で最も海氷生産が高い海域の一つであり、北太平洋で一番重い水が作られる。この水は南極起源のもの程重くはなれないが、北太平洋の中層まで及ぶ循環を作っている。我々の研究から、近年の温暖化でオホーツク海の海氷生産が弱まり重い水の生成も減少し、北太平洋まで及ぶ沈み込み(中層循環)も弱まっていることが示唆された。これによって、物質(例えば生物生産に不可欠な鉄分)の循環が弱まると、生態系にまで大きな影響をもたらす可能性がある。

第4回低温研セミナー「低温氷表面反応:宇宙における分子進化の鍵」 渡部 直樹 (雪氷物性/惑星科学)

日時 2008年9月16日(火)16:00‐17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
恒星や惑星は宇宙の分子雲と呼ばれる非常に冷たい(-263℃程度)領域で誕生します.分子雲は目で見ると真っ暗で何も無いように見えますが,実は,そこには多種多様な分子とタバコの煙ほどの小さな氷微粒子が存在しています.これまでの天文観測で,分子雲には複雑な有機分子を含め,140種類以上の分子の存在が確認されています.これらの分子は,極低温の分子雲内部で簡単な原子・分子から徐々に複雑化(進化)してきたと考えられています.それでは,星も存在しないような極低温の環境で分子はどのように進化したのでしょうか?最近の私たちの取り組みから,極低温下での分子進化に氷微粒子が大きな役割を果たしていることが分かってきました.講演では宇宙における分子進化の基礎知識と,最近の私たちの成果,今後の研究の方向性についてお話しする予定です.

第3回低温研セミナー「メタオミクスから探る環境の微生物コミュニティー」 笠原 康裕 (微生物生態学)

日時 2008年7月29日(火)16:00-17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
地球上の物質循環は生態系の重要な機能の一つです。その生物地球化学的プロセスは、動植物と相互作用しながら主に微生物がネットワーク的に担っています。このプロセスに関連する微生物やコミュニティー、ネットワークを明らかにするために、細胞レベル・分子レベルでの解析を行っています。近年、環境中のDNAを網羅的に解析する「メタゲノム」研究から微生物や遺伝子の新規存在・多様性、環境因子と関連付けて微生物コミュニティーの理解が進められています。さらに、環境中のRNA、タンパク質、代謝産物など網羅的に解析する「メタオミクス」研究が行われつつあります。本セミナーでは、微生物生態学とは?メタオミクスとは?合わせると何がわかるのか?話したいと思います。

第2回低温研セミナー「光を使って結晶が成長するメカニズムを理解する」 佐崎 元 (雪氷相転移ダイナミクス)

日時 2008年7月1日(火)16:00-17:10
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
水は地球上に最も多量に存在する物質の一つであり,地球環境科学,地球・惑星科学における様々な自然現象は水の「相転移」現象としておこります.そのため,水が気相や液相から固相(雪および氷)に相転移(結晶化)する現象のダイナミクスは,幅広い分野を理解するための鍵を握ります.この結晶化ダイナミクスを理解するべく,これまで私は,結晶の成長素過程をその場観察する研究を,生体巨大分子であるタンパク質を題材に行ってきました.本セミナーでは,結晶が成長する基本メカニズムを,多くのムービーをご覧いただく事で,視覚的に捉えていただければ幸いです.

第1回低温研セミナー「陸面と大気の科学」 渡辺 力 (雪氷環境)

日時 2008年6月3日(火)16:00-17:00
場所 低温科学研究所 新棟3階講堂
地球大気の上端に入射する太陽放射のエネルギーは、その約半分が大 気層の下にある地表面(陸と海)に吸収されます。地表面に吸収されたエネルギーが、顕熱(直接加熱)、潜熱(水の蒸発・凝結に関連する熱)、長波放射(赤外線)の形で大気に伝わり、海陸風やモンスーン循環、果ては大気大循環などを駆動します。それによって熱や水が時空間的に再配分された結果として、現在の気候が形成されています。陸域では、こうして形成された気候に応じて、森林、砂漠、草原、雪氷域などが分布していますが、これら熱的な性質の異なる地表面が、それぞれ異なる影響を大気に及ぼすことで、気候に再び影響(フィードバック)を及ぼします。本セミナーでは、こうした大気陸面相互作用について、なるべく分かり易い解説を試みます。

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