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研究者を志す皆さんへ

研究者(大学教員や研究所の研究者)として生きていくことを目指し,それを実現するためには,大学院の修士・博士課程の期間に,将来にわたるロードマップ(いつまでに何を学び,何を成し,将来はどのような研究を展開したいか,の道筋)をよく考えながら,1年1年を過ごすことが重要だと思います。そして,「そのロードマップをスタートさせることできる研究室」 and/or 「自分の価値観に合う研究室」を選び,そこで大いに学ぶことが,実現に向けての第一歩だと思います。
以下に,ロードマップを考えるうえでの素材(我々が,考えていること,重視していること,指導していることなど)を載せました。研究室選びの,もしくは,ロードマップを考えるための,参考にして下さい。
 


重視するべきこと

たくさんの「やりたい研究」があるのに, 「限られた時間」しかない,という状況に対応するために,我々は,以下の4つの事項が重要だと考えています。
 
1. 健康管理をする
余裕のあるスケジュールを組んでも,過密スケジュールになってしまう。無理と思うときは,翌日,翌週,翌月,翌年にやれば良い(もっと言えば,次の世代に託せばよい,次の世代が実現できる環境を整えれば良い)。よく寝て,よく食べ,よく飲むこと。
 
2. 責任を持つべき部分と持たない部分に線を引き,過負荷に陥らない
学生に求められることは,予想し(仮説を立て),実験を行い,結果を得て,発表し,論文を書くこと,そして,研究の進め方や,研究が行われている環境を理解することである。教員やスタッフが負うべき仕事や責任を背負ってはいけません。
 
3. 良いデータを求めて,同じ実験をひたすら繰り返さない
予想どおりのデータがでないときは,「やり方が悪い」or「もとの予想や過去の研究が間違っている」の両方を疑う。
 
4. 神話・伝説・迷信に惑わされない
「教科書的な知見・伝統的な解釈」で,説明できない事があるならば,その知見・解釈は,正しくない。それに代わる「正しい説明」を予測・証明することは,多くの場合難しいが,実験から得られたby-productが,「正しい説明」への道標になることが多いので,「by-product」を丁寧に扱う。
 
4つ目はもう少し説明が必要かもしれません。
我々は,既に出版されている教科書や論文,解釈に基づいて,研究計画を立て,実験をおこないますが,「想定される結果にたどり着けない」ということは,割と頻繁にあります。なぜならば,教科書や論文でもっともらしく説明されている内容というのは,あまたの自然現象の中の,ごく一部でしかないからです。自然界の中には,今までの先人達が得てきた知見ではとらえきれない,説明できない「未知」や「矛盾(paradox)」が,無数,存在しています。そのような「未知なる領域」を,追求できるような研究に運良く巡り合えると,by-product(予想と異なる結果,予期せず得られた新しい知見)が得られるのです。
そして,そのby-productに基づいて,未知や矛盾を説明できるような「新しい考え方」を産み出すことができると,これまでは見えていなかった,説明することができなかった多くの現象が,突如として意味を持ちはじめ,これがサイエンスを進展させる大きな原動力になるのです
これまで業界でもたらされてきた多くのブレイクスルーも,以上の様な流れを経て,「想定外」の中から産み出されてきました。また,その「想定外」を「ブレイクスルー」たらしめた大きな要因が,まさに「by-product」を丁寧に扱い,それに基づいた「新しい考え方」を導き出し,世界に発信できたかどうか,という点にあるのだと私は思います(※)。
 
※ただし,「伝統的な解釈」に基づく議論が活発なコミュニティでは,「新しい考え方」は,なかなか受け入れて貰えない(何度論文を投稿してもrejectされる・・・)ことが多いと思います。一方で,その「reject」の原因は,我々の説明が「丁寧で無い」,「十分でない」だけであったりもします。「教科書的な知見,伝統的な解釈」を覆してしまうような発見を見つけたときは,できるだけ,多くの聴衆・読者が認められうように,or 納得できるように主張を展開することが重要です。